ITコンサルタント会社、ISENSEの代表取締役社長で、元ファーストリテイリングのCIO(最高情報責任者)だった岡田章二氏。これまでさまざまな企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援してきた。新型コロナウイルスのまん延によって市場が大きく変化した小売業界において多くの企業が抱えている課題と求められるDX推進にどう対応していくのかを、企業文化の在り方から組織構造、変革へのアプローチまで語る。

※本コンテンツは2022年9月26日(月)に開催されたJBpress主催「第9回 リテールDXフォーラム」の基調講演「会社を躍進させる仕組み~デジタルはあとづけで~」の内容を採録したものです。

コロナ禍で苦戦した「業態の明暗」は本当か

 コロナ禍で市場は大きく変わり、「業態の明暗」が分かれたという。巣ごもり需要、テイクアウト需要、リモートワークの拡大により、食品スーパーやホームセンター、ファストフードなどが好調で、休業要請や移動制限によって百貨店、アパレル、飲食チェーンは苦境に陥ったと報道されている。

 ISENSE代表取締役社長の岡田氏は、その報道に疑問を持つようになったと話す。なぜなら、苦戦業種であるはずのアパレルのファーストリテイリングや「無印良品」を展開する良品計画は最高益を更新し、飲食店の丸亀製麺はコロナ禍中に、最高益予想を29%上方修正したからだ。苦戦していると言われる業種に入るこの3社が他の企業とは違っていた点として「市場のニーズ変化へ素早く対応できたこと」だと岡田氏は指摘する。その背景には、トップの強いリーダーシップに加え、企業変革できる企業風土や体制があったのではないかとみている。

 岡田氏はもうひとつの企業例として、高品質の素材を国内縫製で低価格販売するメーカーズシャツ鎌倉を取り上げる。コロナ禍で打撃を受けた際、メーカーズシャツ鎌倉は即座にシャツの素材を使ってマスクを作ったという。このマスクは生産が追い付かない程に人気を博した。それに留まらず、シャツを作る技術を使って日本古来の伝統服である作務衣を開発。コロナ禍のピンチを脱した。

 小売業は変化対応業であり、ニーズの変化にどう対応していくのかが重要になる。「DXで大事なのはデジタルよりも変わるということだ」と岡田氏は強調する。

日本におけるDXの成功率はとても低い

 DXの前段階となるシステム開発の成功率は、日本では約30%と言われている。日本情報システム・ユーザー協会の報告書を基に試算してみると、工期順守、予算順守、品質満足を満たしている成功率は2020年でわずか5.9%。コロナ前の2019年でも10.3%になる。

 DXの成功率はさらに低い。あるコンサルティング会社の調査によると、DXが成功していると認識している企業は約7%にすぎないという。

 同社が「DXを成功させるポイント」と掲げるのは①明確なDXビジョン、②思い切ったヒトとカネの投資、③デジタル知見を有した経営陣の覚悟、④アジリティ(機敏)でダイバーシティ(多様性)のある組織、⑤デジタル教育と改革の意識付け―の5つだ。つまり成功率が低い原因は「ビジョンがない」「投資が足りない」「覚悟が足りない」「外部コンサルタントの活用が足りない」「デジタル啓発が足りない」というわけだ。しかし岡田氏はこれに疑念を持つ。