コーポレート上席執行役員 CDIO(Chief Digital Innovation Officer)の田中豊人氏

お客さまとリアルな接点があることを強みに

 1977年、業界で初めて「オフィス・オートメーション」(OA)を提唱するなど、早くから業務の効率化や生産性の向上に取り組み、持続可能な社会づくりに貢献してきたリコー。近年はデジタルサービスの会社への転換を掲げ、DXへの取り組みも強化しており、2021年4月にデジタル戦略部を設立。2022年には経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄」にも選ばれた。

 日本のみならず、米・中の企業でもデジタルによる変革を目の当たりにしてきたコーポレート上席執行役員 CDIOの田中豊人氏に、リコーのDXについて聞いた。

――ご経歴を教えてください。

田中 大学卒業後、コニカ(現・コニカミノルタ)に入社しました。その後、米国に本社のあるGEという会社に入社し、次に中国企業 アリババの日本法人の代表執行役員を務めておりました。リコーには2020年の4月に入社し、約2年半がたちます。

 DXという視点でいくと、私は“D”よりも“X”を先に経験した珍しいパターンではないかと思います。というのは、コニカミノルタで写真事業に携わっていたのですが、当時はフィルムカメラが主体でした。ところが、技術の進化によりデジタルカメラや携帯電話ができて、あっという間に1つの産業が衰退していった。技術の進化や社会の変化による影響の大きさを、身をもって体験したわけです。

 その後ジョインしたGEは、デジタルの破壊力というものを早い時期から感知している企業でした。私が在籍していた頃は、ビッグデータを世界一活用できるメーカーになろうと、風土改革を含めた変革の真っ最中で、そこでもXを目の当たりにしました。

 アリババも、いわゆるeコマースやデジタルの世界でものすごい勢いで事業拡大をしていく中で、ビッグデータが鍵になるような事業を推進してきた企業です。ですので、私はITの専門家ではありませんが、バックグラウンドとしてはデジタルやデータを活用したビジネス経験があります。

 リコーに入社した当時はCDIOというポジションでしたが、同時に、最初の1年は販売の責任者としてラインも経験しました。具体的には東南アジア、中国、インド、オセアニアといった地区の販売の本部長を拝命しました。お客さまとのやりとりや、現場におけるリコーのシステムの状況を把握することで、デジタルやデータによる変革が必要な部分をプランニングすることができたので、非常に貴重な経験をさせてもらいました。

――リコーに入社された際、使命はあったのでしょうか。

田中 最初にお声掛けいただいたときに言われたのは、とにかくデジタルサービスの会社になり生まれ変わるため、変革が必要なのだと。もちろん、リコーには素晴らしい実績もたくさんあるけれども、私のこれまでの経験を生かしながら、新しい視点でデジタルサービスの変革に一緒に取り組んでほしいというのがミッションでした。そこで入社後早い段階で、カスタマーサクセスを中心に据え、デジタルとデータを使いこなして新しい顧客価値創造を目指す、という視点の強化を明確に打ち出しました。

――リコーがDXに取り組んだきっかけを教えてください。

田中 リコーは、創業者の市村清が掲げた「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という“三愛精神”を原点として事業を行ってきました。これは、現代の言葉に置き換えるとESGやSDGsなのですよね。つまり、当社はかなり早い段階から環境経営というものを提唱し、ESG目標とひも付けて活動してきたのです。

 社会課題の解決、持続可能な社会づくりに責任を果たすということと並行して、リコーが大事にしているのが、「“はたらく”に歓びを」というビジョンです。仕事を通じて、充足感、達成感、自己実現の実感をお客さまに感じていただくお手伝いをするというもので、変化していくお客さまの“はたらく”に、変わらずに寄り添い続けることを大切にしています。

 例えば、リコーの販売会社であるリコージャパンでは「SDGsキーパーソン制度」をとっています。キーパーソンと呼ばれるSDGsの専任人材を全国47都道府県全てに設置して、地域のお客さまとの関係を強化し、場合によっては当社のソリューションを使っていただくというもので、現在、約1万8000人の社員のうち、510人がキーパーソンを担っています。

 ところが、これだけ技術が進化して社会が変わってくると、いわゆる商品だけでお客さまの「“はたらく”に歓びを」や、持続可能な社会づくりに貢献するのは難しい。われわれ自身が「“はたらく”に歓びを」を実現しながら変わらなければいけないということで、現在掲げているのがデジタルサービスの会社への転換です。当社の製造業のノウハウと技術を活用し、デジタルを使ってお客さまの課題解決に貢献していく。DXは、そのための手段という位置付けで考えています。これは私が入社する前から、リコーがパーパスとして掲げてきたことです。

――具体的には、どのような活動を行っているのでしょうか。

田中 当社では、以前から積極的にデジタル化に取り組んできました。その結果、リコーの主力であったオフィスプリンティング事業に比べて、オフィスサービス事業の売り上げが拡大しています。当社ではコピー機のような製品を扱っているので、全国にいるセールスやサービスのエンジニアがお客さまのところに訪問する機会が多く、お客さまとのリアルな接点がある。それが強みになるのですね。

 例えば、社内にリモートワークを取り入れたいというご相談をお客さまから受けたとします。日頃からお客さまとリアルで接しており、業務内容も把握していますから、リモートワークに必要なPCにお客さまの希望に合ったソフトウエアをのせて、セットでご提供することができる。場合によっては、メンテナンスまでしっかりと行うことができます。