リーダーシップ開発に取り入れたクロスファンクショナルタレントディスカッション
人財戦略は、「リーダーシップ開発」「トレーニング」「キャリア開発」の3軸で実施している。トレーニング施策としては、次世代リーダー候補に焦点を当てたリーダー養成研修であるファイザービジネススクールを開講。キャリア開発として、多様なキャリアパスを実現する「ジグザグ成長キャリアパス」や、短期出向で成長の機会を提供する「セコンドメントプログラム」も展開するのが特徴だ。また、同社における上級職の採用は、本部長やカントリーマネジャーを含め「社内公募による内部採用」を主としており、これが「キャリア形成の支援に大きく寄与している」と相原氏は話す。
人財戦略の中でも2019年ごろから刷新したリーダーシップ開発の取り組みは、「個に焦点を当てた育成」が大きな特徴となっている。
同社のリーダーシップ開発では「クロスファンクショナルタレントディスカッション」が導入されている。具体的にはピープルエクスペリエンス部門をファシリテーター役に、年2回・毎回2〜3時間ほどの会議として実施され、会議には全事業部門の部門長(取締役・執行役員クラス)が一堂に会する。会議ではまずタレント(リーダー候補)のギャラリーウォークを実施。その後サクセッションプラン(リーダー育成計画)を軸とした個人評価・タレント選定が行われる。人選・評価などにかかるディスカッションはクロスファンクショナル(部門横断)形式で行われるため、直属の上長では分からない人物評価に気づくことがあるようだ。
合い言葉は「One Pfizer」。そもそもこうした議論というのは、たとえ部門長クラス同士の議論でも「絵に描いた餅」で終わってしまいがちだったという。その意味では「タレントディスカッションで出た結論に実効性を持たせることが、大きなチャレンジだった」と相原氏は話す。
「例えば、サクセッションプランで『この人物が適任ではないか』といったポジティブな議論が持ち上がっても、いざ各論に入ると『今のビジネス状況から考えたら(既存部門から出すのは)厳しい』『今年は無理では』といった結論に落ちてしまう。しかし、われわれが考えなければいけないのはそうした会社側の都合ではなく、リーダー候補のキャリアにとって『いま何をしてあげるのが一番よいのか』ということです。もしかすると、リーダー昇格を来年まで待つことで、その社員はキャリアアップの機会を失ってしまうかも知れません。この観点から『クロスファンクショナルタレントディスカッション』は重要であり、その意義を部門長たちに認識してもらうよう努めました」
「Just Do It」。頭で考えるより「まずやってみる」が人事に求められている
リーダーシップ開発に取り組む上で重要なポイントとして、相原氏は「仕組み」「ストレッチアサインメント(目標到達が難しい役職に任命し成長を促すこと)」「支援」「リーダーのコミットメント」の4つを挙げた。
「効果的に素早くリーダーを育て上げるには、まずは何より仕組みが大事ですが、それだけでは不十分です。実際には、人は仕事を通じて成長していくことになるため、適切な仕事(チャレンジングで、達成できるかできないかギリギリのラインが望ましい)をアサインしなければいけません。さらにアサイン後には、コーチングなどの支援も必要になります。そして、上司にあたるリーダーの育成を支援するというコミットメントは必須であり、これらが全て組み合わさることで初めて組織として機能的にリーダーをつくる体制が整備されたといえるでしょう」
最後に相原氏は、同社ピープルエクスペリエンス部門長として人事戦略・変革に取り組む中で、特に意識しているポイントとして「人事戦略は制度づくりが目的ではありません。制度・仕組みづくりはスタートに過ぎず、実行され、成果を上げることがゴールです。そのためには、コミュニケーションが重要であり、どれだけ重ねてもやり過ぎということはありません」と述べ、さらに人事に関わる人に向けて次のようにエールを送った。
「VUCAといわれる今の時代、何が正解かは分かりません。一生懸命に正解を考えても、おそらく時間を浪費するだけでしょう。人事戦略にもリーンスタートアップの思想を取り入れ、小さく試しながら、時に失敗し、修正しながら進んでいってもらいたいと思います。Just Do It。頭で考えるよりもまずやってみる姿勢が、これからの人事に求められていくでしょう」