「データドリブン経営」が盛んに叫ばれ、データ活用の重要性が広く認知されるようになった。しかし、実際にデータをビジネスに生かすためには、データの品質確保や解析、活用の仕組み、ビジネスの知識とデータリテラシーを併せ持つDX人材の育成などが必要不可欠だ。塩野義製薬はデータドリブン経営をどのように実現しようとしているのか。DX推進本部データサイエンス部長の北西由武氏に聞いた。
「データ活用の障壁」を取り払うために
――2021年にデータサイエンス部を立ち上げました。データサイエンス部のミッション・役割はどのようなものですか。
北西由武氏(以下敬称略) 大きくは、社内外の多様なデータを活用するための基盤を構築し、ヘルスケアソリューションの創出、業務プロセス改革に貢献することです。
DX推進本部の直下にあり、データサイエンスの側面から、科学的根拠に基づく経営判断をサポートすること、データリテラシー向上のための人材育成施策の企画・推進も私たちの仕事です。
具体的な取り組みとしては、シミュレーション機能を含めて経営を見える化するダッシュボードの作成、生成AIなどの活用による業務効率化、医薬品やヘルスケアサービスへのエビデンス構築と価値評価・検討、データ活用を軸としたヘルスケアビジネスの創出などがあります。
――これまでデータ活用の取り組みを進める中で、障壁や課題はありましたか。
北西 ビジネスにおけるデータサイエンスのプロセスは、「観察・仮説・検証・考察・意思決定」というサイクルが基本になります。このサイクルを回しながら価値を創出していくために、近年は横断的なデータの活用が強く求められています。
しかし、つぎはぎのシステムや組織の縦割りによるサイロ化でデータの動線が複雑に絡まり、横断的にデータを取ることが困難なケースが多くあります。当社も取り組みの当初は、この状態でした。
――課題をどう解決していったのでしょうか。
北西 システムを刷新するに当たっては、統合データベース、統合解析環境、検索性と網羅性を兼ね備えたデータカタログの構築を進めました。
その上で、DX推進本部の下、IT部門とデータサイエンス部が密に連携し、導入段階からデータ動線の設計、データの共通化・標準化を進めたのです。
また大前提として、データ活用は、データありきではなく「実現したいことは何か」「そのためにどうすべきか」を議論しながら仮説を立てなければなりません。そうした議論のためにも、業務部門を含めて全社的にデータリテラシーを強化しています。