テスラ社のPRによれば、テスラ保険の加入時には90点の想定スコアでスタートして(満点は100点)、毎月の安全運転の度合いに応じてスコアは変動、平均的なドライバーで2~4割、満点のドライバーで3~6割保険料が安くなるという。
ドライバーを囲い込むテスラの「インセンティブ」
一方、テスラ保険の満点ドライバーには保険料の低減以外にもインセンティブがある。テスラは有料の「フルセルフドライビンク」(FSD)のベータ版テストプログラムを、最初2週間の安全運転スコアが100点満点のドライバーに優先的に招待を送るという取り組みを行っている。
テスラ車を日常の足として選択する人にはイノベーターやアーリーアダプターが多く、新しいテクノロジーに対しては一番乗りをしたいという気持ちが強いので、こういった特典は大歓迎だろう。逆にテスラの側も、超安全運転のドライバーにベータ版の完全自動運転システムを使ってもらい、システムの設計ミスやクルマの誤作動を洗い出したい。
テスラとドライバーの関係はクルマを購入して終わりではなく、自動車保険を重要なタッチポイントとしてWin-Winな関係性が継続・進化していくというわけだ。
保険料の算出にはテスラの運転支援機能オートパイロット向けセンサーデータが豊富に収集したデータが活用されるので、ドライバーの運転に関する情報量という点では、従来の保険会社がテスラに太刀打ちすることは難しい。「今後、自動車事業のバリューの30~40%が保険事業になる」というイーロン・マスクの前出のコメントは決して投資家向けの打ち上げ花火ではなく、周到に仕組まれた中長期にわたるドライバーの囲い込み戦略なのである。
クルマの自動運転化がもたらす広範なゲームチェンジ
2010年代、スマートフォンはモバイル通信プラットフォームとして、コミュニケーション領域だけでなく、ショッピング、金融・保険、エンターテインメントなどライフデザイン型サービスの受け皿として伝統的マーケティングのゲームチェンジを促した。
2020年代は、今度は自動運転のクルマが「スマホ化」することで新たなモビリティサービスのプラットフォームを形成していくだろう。
実は保険ビジネスはクルマとの親和性が高いがゆえに目立つだけで、やがてゲームチェンジは多くのライフデザイン領域にも及ぶ。
変化はチャンス。この動きが既存の自動車メーカーの生き残りを賭けた「なりわい革新」の大きなヒントになることを、日本のビジネスパーソンは見落としてはならないだろう。