ロシアのウクライナ侵攻から約2週間後、米国のバイデン大統領はデジタル資産に関する大統領令を発出した。その内容を元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第77回。

 3月9日、米国のバイデン大統領は「デジタル資産の責任ある発展を確保する」(Ensuring Responsible Development of Digital Assets)ための大統領令を発出し、デジタル資産に対する包括的かつ省庁横断的な検討を指示しました。

 この大統領令については、2月24日のロシアのウクライナ侵攻から2週間後、また、3月1日にEUがロシアの7銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワークから外す決定をしてから約1週間後に発出されたため、これらの関係が話題となっています。

 今回の大統領令は、財務長官、法務長官、商務長官、FRB(連邦準備制度理事会)議長など多数の行政機関に、今から半年間での広範な検討および報告を求めています。さすがに、わずか1、2週間でこのような幅広い行政機関への調整を全て完了させることは困難であり、検討の方向自体はロシアのウクライナ侵攻前から固まっていたと考えられます。実際、米国政府の担当官もそのように説明しています。

 もっとも、大統領令の内容には、今回のロシア制裁が浮き彫りにした論点と重なるものが多く含まれていることは確かです。実際に、政府の担当官は大統領令を巡る記者会見において、ロシア・ウクライナ問題に言及しています。従って、今後の検討は、ロシア制裁により一段と高まった米国当局の「安全保障」や「違法な金融行為の抑止」などへの問題意識を反映していく可能性が高いでしょう。