米メタ(旧フェイスブック)は、これまで主導していたステーブルコイン「リブラ」(現「ディエム」)の計画から撤退する旨を公表した。この背景について、元日銀局長の山岡浩巳氏が考察する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第72回。
2019年6月、フェイスブック社(現メタ社)が主導する形で計画が公表されたステーブルコイン「リブラ」は、世界中の注目を集めました(第9回、第15回、第37回参照)。その後のG20やG7などの国際会議でも、リブラへの対応が主要なテーマとなりました。
リブラへの各国当局の警戒
リブラの大きな特徴は、以下の2つです。1つは、複数の先進国通貨建ての安全資産(短期国債など)を裏付けとすることで、通貨バスケットに対する価値を安定させようとしたことです。これにより、新興国や途上国の人々も含め、広範な人々が安価な国際送金手段として利用できることを狙ったわけです。もう1つは、20億人以上のユーザーを抱えるフェイスブックが主導したことです。これによりリブラは、「本当に支払決済に広く使われるかもしれない」と注目を集めました。
各国当局はリブラへの警戒の理由として、マネーローンダリングの抜け道として使われる可能性など、さまざまなものを挙げました。しかし、最大の懸念は、リブラが複数の先進国通貨建て資産を裏付けとする点にあったと思われます。
フェイスブックのユーザーは新興国や途上国にも多数存在しますが、これらの国々の通貨の中には必ずしも信認が十分でないものがあります。そうした国々では、海外送金だけでなく国内の取引でも、自国通貨の代わりにリブラが使われる可能性が考えられます。そうなると、リブラを通じて、実質的に自国通貨から先進国通貨への資金流出が起こりかねません。
実際、その後のG20の議論では、リブラのようなステーブルコインを、他のステーブルコインと区別して「グローバル・ステーブルコイン」と呼び、とりわけ監視を強化する姿勢が打ち出されました。