世界の基軸通貨ドルを発行する米国が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する報告書を公表し、広く意見を求めている。その内容や背景について、元日銀局長の山岡浩巳氏が考察する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第70回。
米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度)を巡る最近の話題と言えば、米国の急速な物価上昇の中、インフレ対応に舵を切っていることです。米国がインフレを抑制できるかどうかは世界経済にも影響の大きい問題ですので、関心を集めるのも当然でしょう。
同時に、もう一つの話題として、FRBが1月20日、中央銀行デジタル通貨に関する報告書(“Money and Payments: The U.S. Dollar in the Age of Digital Transformation”)を公表し、広く意見を求めたことも挙げられます。
中央銀行デジタル通貨を巡っては、中国が「デジタル人民元(e-CNY)」(第6回参照)の実証実験を国内主要都市や北京冬季五輪の会場で試験的流通を行うなど、非常に目立つ動きをしている中、米国はこのような動きを冷静に見ていました。今回、いわば満を持して公表した報告書の背景および内容を見ていきたいと思います。
通貨インフラの議論をリードしてきた米国
米国はこれまで、通貨インフラを巡る国際的な議論をリードしてきました。
米国で2つの連邦準備銀行の総裁を務めたジェラルド・コリガン氏が、1982年と87年に著した2つの「コリガン・レポート」(「銀行は特別な存在か?」および「金融市場の長期的展望」)は、中央銀行員の誰もが一度は読む「バイブル」のような存在です。このレポートの中では、通貨・決済インフラこそが金融システムの核であり中央銀行機能の根幹であることが、わかりやすく解説されています。