2022年、米中問題や脱炭素化、世界的なインフレ傾向などがデジタル化にどのような影響を及ぼすのか? 元日銀局長の山岡浩巳氏が展望する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第67回。
毎年この時期になると、「今年の○○の展望」といった記事が世にあふれるわけですが、いきなり「オミクロン株」の感染拡大に見舞われた本年(2022年)は、それどころではないという雰囲気かもしれません。とはいえ世界には、米中問題や脱炭素化、インフレ傾向などさまざまな動きが生じています。そこで、これらとデジタル化との関わりについて展望してみたいと思います。
米中問題とデジタル化
米国と中国の関係については、しばしば「トゥキディデスの罠」、すなわち、強国に拮抗するもう一つの強国が台頭すれば対立は必至といった文脈で語られます。この見方の是非は別として、今日、米中の問題を考える上で、デジタル化という視点は避けて通れません。
かつての「冷戦」や「米ソ対立」における主な論点は軍事力であり、経済力の面では米ソの間には3倍近い格差がありました。これに対し、現在の米中の問題は、経済問題とより強くリンクしています。中国がこのままのペースで成長を続ければ、中国の経済規模が2030年までに米国を抜くとの見通しが数多く出されています。中国が実際にいつ米国をGDPで上回るかはともかく、近い将来に追い抜く可能性は高いでしょうし、世界には飛び抜けた2つの経済大国が並立する状況となることは確かです。
ITとデジタル化は、このような2つの経済大国の併存を生む背景になっています。中国が近年、新興国の中で最も積極的にIT技術を取り入れ、人口増加率が低下する下でもデジタル化を通じて高めの経済成長を実現してきたからこそ、今、このような状況が生じているわけです。中国は国内に“BAT”や“BATJ”(Baidu, Alibaba, Tencent, JD)と呼ばれるような巨大テック企業(ビッグテック)を育て、成長の牽引役に押し上げました。
一方、米国も、成熟した先進国の中にあって、やはりIT技術を取り入れながら高めの成長を実現してきました。現在、世界の巨大テック企業といえば、中国の”BATJ”か米国の“GAFA”、あるいは“GAMAM”(Google, Amazon, Meta, Apple, Microsoft)かであり、米中2か国への集中が目立っています。
この中で、デジタル技術は国家間のパワーゲームや安全保障とも強く関わるようになっています。デジタル技術の中に、量子暗号やAI、サイバーセキュリティなど、安全保障と直接関係するものが多いことはもちろんですが、同時に、米中を含む各国は、より広い意味でのデジタル技術が先行きの経済的パワーを大きく左右することを意識し、これを、経済安全保障を含む国家戦略の一環として捉えるようになっています。
このような傾向は既に、国際課税や独占禁止法の適用、知的財産権の取り扱い、いわゆる「データ・ローカライゼーション」(各国民のデータを保管するサーバー等を各国内に置くよう求める規制)など、さまざまな面に表れてきています。この中で、これまで「オープン」を旗印としてきたITやデジタル技術について、「経済安全保障」などを旗印とした国による「囲い込み」や「流出防止」「輸出管理強化」などの動きがどの程度強まるのかが、今年の注目点といえます。