本年(2022年)、世界的なインフレ率の高まりが注目を集めている。日銀で長らく物価の分析に携わった元日銀局長の山岡浩巳氏が展望する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第68回。
現在、世界的なインフレ率の上昇が注目されています。米国では、昨年12月の消費者物価上昇率(前年比)が7.0%と、1982年以来39年振りの7%台となりました。この中でバイデン大統領をはじめ政策当局者も、インフレ抑制に優先的に取り組む意向を表明しています。欧州でも、昨年12月のユーロ圏消費者物価上昇率(前年比)は5.0%に達しています。日本は米欧に比べれば消費者物価の上昇率は高くありませんが、企業間の取引価格を示す企業物価指数は、昨年12月には前年比8.5%とかなりの上昇になっています。
デジタル化時代の物価統計作成の難しさ
消費者物価指数は、さまざまな財やサービスの価格を、消費者が平均的に「何をどれだけ買っているか」という割合でウエイト付けして算出されます。しかし、この指数を実際に作成することは、決して簡単ではありません。
そもそも前年と全く同じ財やサービスを見つけること自体、容易ではありません。デジタル技術革新はこの問題を一段と深刻にしています。
経済のデジタル化とともに、人々がデジタル関連の財やサービス、例えばスマートフォンやその利用料に充てる支出は増加傾向にあります。しかし、スマートフォンは性能を向上させた新製品が次々と発売される一方で、過去の製品は比較的短期間のうちに市場に出回らなくなります。さらに、料金プランも複雑であり、変更も頻繁です。このため、今や人々の支出のコアとなっているスマートフォン関連の支出において、「昨年と全く同じもの」を簡単に探せるわけではありません。