さらに、デジタル化に伴い、店頭ではなくネットショッピングでモノを買う人が増えています。ネットショッピングでは店頭販売に加え、消費者のデータを分析した上で細かな価格戦略を講じることが可能になっています。例えば、大量に、あるいは頻繁に購入する消費者に対してボリューム・ディスカウントが提供される場合、「誰が買うかによって値段が異なる」こともあり得るわけです。
加えてネットショッピングでは、「会員割引」のように、購入の際に会員になって個人情報を入力すれば安くする、といった販売形態も増えています。これは実際には値引きと言うよりも、売買と同時に企業側が顧客側のデータを購入し、その差額を「割引価格」と呼んでいるわけで、これをそのまま「価格下落」と捉えることは適当ではないでしょう。
デジタルによる統計の可能性
一方で、デジタル化により統計情報を拡充できる可能性もあります。
例えば、消費者物価は基本的に「月次」の統計ですが、ネットショッピングでは、とりわけ家電製品や航空チケット、宿泊代などを中心に、インターネットに掲載される価格情報や、どれが最安価かといった情報が、日々刻々消費者に提供されるようになっています。このようなネット上の情報を自動的に収集することで、物価データをより精緻化できる可能性が生まれています。
もちろん、これには、ネットショッピングになじみやすい財やサービスの情報以外は集めにくいとか、事業者が消費者の関心を引くために「ダミー」として掲載する実態のない極端な安価を拾ってしまう可能性があるといった課題はあります。しかし、このような課題を十分認識しつつ、新しい技術や媒体を活用し物価指数を精緻化していく意義はあると考えられます。消費者物価指数を作成している総務省は、ウェブサイトから価格情報を自動的に収集する「ウェブスクレイピング」を指数作成に活用する取り組みを開始しており、昨年より「航空運賃」、「宿泊料」、「外国パック旅行費」について、この手法を取り入れるようになっています。
デジタル財と物価
デジタル化時代の物価指数を考える上でのもう一つの論点として、これが直接に物価指数に及ぼす影響が挙げられます。
日本の消費者物価指数は、昨年11月時点での総合指数で前年比0.6%となっています。もっとも、これには昨年4月の携帯電話通信料の引き下げの影響がマイナス1.5%ポイント程度の下押し要因になっており、これを除くとインフレの動向はかなり変わります。このように、携帯電話やスマートフォンが多くの人々にとって必需品となり、その支出のウエイトも高まっている中、その動向が全体としての物価動向にも影響を及ぼすようになっています。