また、ステーブルコインに関する最近の規制当局側の議論も影響しているでしょう。
前述の大統領ワーキンググループの報告書では、ステーブルコインについて、一貫した包括的な連邦の監督下に置くべきであると提言しています(agencies recommend that Congress act promptly to ensure that payment stablecoins are subject to appropriate federal prudential oversight on a consistent and comprehensive basis)。このように包括的な対応を求められている中、巨大企業メタ社が主導するステーブルコイン計画にゴーサインを出すわけにいかないという事情があります。一方でメタ社にとっては、ディエム計画のためにメタ社全体が金融機関とみなされ、連邦の金融規制監督下に入る決断は採り難いでしょう。このような情勢を考えれば、ディエム計画が、もともと米国の銀行監督下にあるシルバーゲート銀行に譲渡されたことも頷けます。
メタバースのマネーの姿は?
一方で、メタ社の今後の動きは引き続き、注目されます。
フェイスブックは「メタバース」の領域にビジネスをシフトするとの方針を掲げ、社名そのものを「メタ」へと変更した経緯があります(第69回参照)。メタバースで取引されるNFT(Non-Fungible Token)などの新たな資産を取引する上で、旧来型の支払手段を使わなければならないとなると、単にネットゲームをVR機器で楽しむのとあまり変わらないということになりかねません。結局、メタバースを現実世界とは異なる一つの世界として確立し、ビジネスチャンスを広げる上で、メタバースに対応した支払手段があるかどうかは大きな意味を持ちます。
リブラ計画を進めようとしたメタ社は、デジタル空間における支払手段の重要性を当然認識しているでしょう。今や彼らのビジネスの主な舞台であるメタバースを発展させていく上で、「メタバースでの取引に使う支払手段をどうするか」は中核的な課題です。この分野で今後、メタ社がどのような戦略を採るのか、注意して見ていきたいと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。