「グローバル」から「ドメスティック」へ
このような各国当局の強い警戒的スタンスに直面し、フェイスブックは徐々に、リブラの「グローバル」の旗印を下ろし、「ドメスティック」化する方向へと舵を切ってきました。
2020年春、リブラは米ドルをはじめ単独通貨建ての安全資産を裏付けとするものも発行していく方針であると表明しました。また、古代ローマの通貨単位に由来する「リブラ(Libra)」という名称も、各国の警戒感を招いたことを受けて「ディエム(Diem)」へと改称しました。さらに、当初リブラの発行体となることが想定されていた「リブラ協会(Libra Association)」はスイスに置かれていましたが、ディエムの発行体となる予定の「ディエム協会(Diem Association)」は米国に置かれ、米国の規制に従う姿勢を明らかにしました。加えて、米ドル建てのディエムの発行については、米国の民間銀行であるシルバーゲート銀行と協調して行っていくとの方針を表明しました。
ディエム協会の撤退
このようにディエム協会は、当初の方針から大きな方針変更を行った上で、米国当局との交渉を進めてきました。しかしながら2022年1月31日、ディエム協会はディエムに関する知的財産や権利を前述のシルバーゲート銀行に譲渡し、自らはディエムのプロジェクトから撤退すると表明するに至りました。
この公表文書は、ディエムの開発チームが、金融犯罪やマネーローンダリングへの対応を含め、先進的な取り組みを行ってきたと記述しています。また、米国の規制当局者からは、「ディエムは米国政府がこれまで目にした中で最も良く設計されたステーブルコイン計画である(Diem was the best-designed stablecoin project the US Government had seen)」との評価をもらったことも紹介しています。さらに、「金融市場に関する大統領ワーキンググループ」が公表したステーブルコインに関する報告書の中で、ディエムがこれまで取り組んできた内容が数多く取り入れられたことを歓迎するとも述べています。
一方で、米国の連邦規制当局との議論の結果、ディエム計画をこのまま進めることは難しいことが分かったと率直に語っています。その上で、シルバーゲート銀行にプロジェクト自体を売却するのが最善の選択だと述べています。
米国では、裏付け資産を持つことにより米ドル建てでの価値の安定を図るステーブルコインは、“USDC”など既にいくつか発行されています。この中で、ディエム計画をこのまま推進することは難しいと判断されたのはなぜでしょうか。公表文書では詳細は語られていませんが、以下のような事情があったと推察されます。
まず1つは、フェイスブックを運営するメタ社が巨大過ぎ、また、5億人を超える個人データの流出事件など、データの取り扱いに関する評判が最近では芳しくなかったことです。「米ドル建てステーブルコイン」というスキーム自体は決して目新しいものではありませんが、これをメタ社が主導することについては世論がかなり警戒的となり、このことを議会や規制当局も無視できなかったという事情があるでしょう。