大統領令の特徴
大統領令の対象とする「デジタル資産」とは、暗号資産(仮想通貨)、ステーブルコイン、および中央銀行デジタル通貨を指すとされています。
大統領令ではまず、2021年11月時点で、民間により発行されるデジタル資産は全世界で3兆ドル(約360兆円)に達し、5年前の140億ドル(約1兆6800億円)から200倍以上に増加していることを紹介しています。また、米国人の成人の約16%に相当する約4000万人の人々が暗号資産への投資の経験を持ち、世界で100以上の国々が中央銀行デジタル通貨の研究をしているとも述べています。
その上で大統領令は、デジタル資産に関する6領域にわたる主要課題を掲げ、これらについて関係省庁や関係機関で協議し、半年以内に検討結果を報告書として提出するよう求めています。これら6領域とは、具体的には以下の通りです。
・消費者・投資家保護
・金融システムの安定
・違法な金融行為(illicit finance)の防止
・グローバル金融システムおよび経済競争力の面での米国のリーダーシップ
・金融包摂
・イノベーション
安全保障上の論点
大統領令ではまず、このようなデジタル資産には、データセキュリティやプライバシーも含めた消費者・投資家保護、システミックリスクも含めた金融システムの安定などの論点があることを指摘しています。これらの論点については、これまでもさまざまな国際会議で指摘されてきました。
その上で、今回の大統領令の特徴は、これらの論点に加え、デジタル資産が犯罪や違法な金融行為に悪用されるリスクを指摘し、さらに人権や安全保障上の論点も掲げていることです。
すなわち、大統領令では、「デジタル資産が米国や海外の金融制裁を回避する手段として用いられるリスク」について明記しています。この点、現在、ウクライナ侵攻に対するSWIFTからのロシアの7銀行除外などの金融制裁を巡り、暗号資産が「制裁逃れ」に用いられる可能性を指摘する見解が一部にあります。実際には、暗号資産を使う制裁逃れにはかなりの制約やリスクを伴いますので、多額の支払いについて暗号資産を用いて制裁を免れることはなかなか難しいでしょうし、米国政府の担当官も同様の趣旨を述べています。とはいえ大統領令は、グローバルな決済インフラは法の支配を受ける透明なものでなければならないこと、ドルの決済インフラは米国の利益にかなうように設計されるべきであること、さらに、米国が国際決済インフラの分野でリーダーシップを果たし続ける必要があることを強調しています。