メタバースの留意点
もちろん、一部に警戒的・批判的な意見もあるように、メタバースやWeb3の発展にとって考えるべき点も多いように思われます。
まず、「ブロックチェーン・分散台帳の収益機会」という点では、もちろん、これらが新たな価値を創出したり、アスリートや芸術家、音楽家、クリエイターとファンの間に新たなつながりを生む可能性があります。
その一方で、新しい市場ではとかく「バブル狙い」の動きもつきものです。リーマンショック時に複雑な証券化商品に生じたバブルの原因として、原資産の価値とのつながりが把握しにくくなってしまったことが指摘されてきました。この点、近年、真っ先にNFT化の対象となったものが、現代アートのように一般の人々に価値が把握しにくいものであったことには留意すべきでしょう。加えて、「メタバースでのNFTの支払いは暗号資産で」と、リスクの高い暗号資産を金融リテラシーの乏しい人々に売り込む宣伝文句に使われる可能性も考えられます。
メタバースはいわば、西部劇のような未開地の開拓に近いものがあります。もちろん、そこには証券取引法などもありません。これを最初から規制でがんじがらめにしてしまうと新しい世界が発展しにくくなるわけですが、逆に無法地帯になってしまうと誰も行きたがらなくなります。このビジネス領域を開拓する人々が自発的に規律をもって、他の人々が安心して住める世界を作っていけるかが鍵になるでしょう。
本質的な価値が問われる
ナイキの登場前、スニーカーは「運動靴」であり「バッシュ」でした。そもそも黒い靴は審判が履くもので、バスケ選手の靴はほぼ白ばかりでしたから、「黒いバッシュ」の登場自体、目新しいものでした。何よりも「エアジョーダン」のような個人名を冠したバッシュはかつて無かったものでした。では私も含め、なぜ多くの人々がエアジョーダンを買ったかといえば、「ジョーダンという選手が、それほど世界に衝撃を与えた唯一無二の存在だったから」だと感じます。
結局、メタバースやWeb3の発展にとっては、そこにあるコンテンツが本当にどのくらい価値があるものかが、決定的に重要となるように思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。