2021年、世界的な半導体不足の影響で、GMも生産のやりくりに苦労をし、全米市場では宿敵の北米トヨタが初めて首位に立ったとの発表(2021年1月4日)もあり、足下の業績も決して磐石とはいえない。バーラCEOも画面越しではあるが、苦労が顔に滲み出ている印象が強かった。本来アドバンテージがあるはずの業界トップの企業が率先してあえてリスクを取り、ゲームチェンジを推進しなくては生き残れないということ自体に、自動車業界が描く未来シナリオの厳しさが凝縮されているのを感じた。

基調講演3:残念だったサムスン電子、禁じ手の製品発表で目の肥えた聴衆が退場

 サムスン電子の基調講演は副会長兼CEOのJ・H・ハン(韓宗煕)が登壇し、CES 2022の正式開幕日の前日、メディアデーの1月4日の夜に開催された。筆者は開始30分前に到着したにもかかわらず、パラッツオ・ボールルームはすでに定員オーバーということでOverflow Room(サブ会場)に回された。意図的に動員されたのかどうかは定かではないが、メインもサブの会場も7~8割が韓国からの聴衆で占められていた。

基調講演に登壇したサムスン電子のJ・H・ハン副会長兼CEO。開催前日の夜開催にもかかわらずメイン会場が聴衆で満杯なのには正直驚いた(出所:digital.ces.tech)

 サムスン電子の基調講演のタイトルは「Together for Tomorrow」と発表されていた。キヤノンがCES 2022で打ち出した「TOGETHER NEXT」や日本のKDDIの「Tomorrow, Together」と丸かぶりなのはご愛嬌。規模で日本企業を追い抜いていった韓国のナンバーワン企業がどのようなサステナビリティ戦略を打ち出すのか、筆者には興味深く感じられたので、時差ボケと終日のメディアイベントで疲れた身体に鞭打って(ほぼ同時間帯のソニーの記者発表に後ろ髪を引かれながら)サムスン電子の基調講演を聴きにいくことにしたのである。

 ハンCEOの話の前半の入りは悪くなかったように思う。サステナビリティ戦略の説明は、いささかバスワード連発の印象が強く、企業としてのミッションやパーパスの中核がどこにあるのか、読み解くのに苦労したが、サムスン電子としてはHyper Connectedな世界を実現することで、Create a Sustainable WorldやBetter Futureが実現できると考えているのだろうと理解した。

 ハンCEOからは製品ライフサイクルの長期化、リサイクルマテリアルの活用促進、エコパッケージング、家電のスタンバイ電力ゼロなど具体的な取り組みも発表された。

サムスン電子の展示ブースで見つけた「Together for Tomorrow」のコンセプトコラージュ。ミッションやパーパスのステイトメントは本来、もっとシンプルであるべきだ(筆者撮影)

 サムスン電子にとって残念だったのは、ハンCEOが舞台袖に下がり、Future Innovation Labのメンバーが変わるがわる登場した後半の展開だ。ガラガラポンで唐突にZ世代に向けた魅力的な製品開発が必要という話になり(おそらく中国市場を強く意識してのことだと思われる)、スタイリッシュな映像プロジェクターのFreestyle、曲面ディスプレイのOdyssey Ark、スマートウォッチや12色の家電、Samsung Home Hubなどがサステナビリティとは何の脈絡もなく次々に紹介された。当然、この段階で違和感を覚えた韓国人以外の聴衆は次々に席を立ち始め、筆者もよっぽど失礼をしようかとも考えたが、隣に座っている韓国人の若い女性(サムスン電子の関係者?)が生真面目な表情でメモを取っているのに気兼ねをしてしまい、心の声を行動に移すことができなかった。ベタな製品発表自体を否定しているのではない。やりたいのなら、基調講演ではなく昼間の記者会見で堂々とやれば良いだけの話なのである。

 次回は記者会見と展示の内容を見ていく。

◎筆者からのお知らせ
 企業の「なりわい」革新については、拙著『「なりわい革新」事業×組織文化の変革で経営の旗印をつくる』(宣伝会議)をお読みいただければ幸いである。