このような取り組みはアボットの「なりわい」が従来の「病気の治療や予防のための医療機器製造」業から、今後は(アスリートや健康な人も含めて)「人生の可能性を最大限に拡大するウェルネス」業へ進化していくことを明確に示しているに違いない。製品はもちろん大切だが、所詮、「パーパス」を実現し、お客さまや社会にとってより良い、豊かな未来を創出するための手段に過ぎないのだ。そう考えると、アボットの展示ブースに掲げられていた「life. to the fullest」(人生。その可能性を最大限に)というワードもすとんと腹落ちできた。

 アボットの基調講演は会場全体のスタンディングオベーションで幕を閉じた。先述した3つの成功法則に加えて、コロナ禍の最中に医療業界初の登壇という期待感があったこと、そして何よりアボットの企業として人間の生命という尊い存在に真摯に向き合う良心や品格が評価されたように思う。

 また良心や品格といえば、アボットは今回のCES 2022の登録者全員に新型コロナウイルス抗原検査キット「BinaxNOW」を無償配布するというファインプレーを行った。にもかかわらず、フォードCEOはそのことを基調講演の中で一言だに触れなかった。筆者がアボットを成熟した一流企業と再認識し、感銘を受けた一因はそこにもある。

アボットのロバート・B・フォードCEOの基調講演はアボットの関係者だけでなく、一般の来場からもスタンディングオベーションを受けた(出所:digital.ces.tech)

基調講演2:既視感が強かったGMのプレゼンテーション

 ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ CEOは完全デジタルで行われたCES 2021に続いての登壇である。開催直前になってリアルからライブストリーミングでのプレゼンテーションに変更になり、聴衆はパブリックビューイングのような形で1時間の基調講演を大画面で視聴する形になった。

 自動車業界の世界的リーダーとしてGMには交通事故、CO2排出、交通渋滞など向き合わなければいけない積年の社会課題は多い。

 バーラCEOは、昨年のCESにタイミングを合わせて新企業ロゴやサステナビリティ・キャンペーン「everybody in」をローンチさせ、GMのEV化への大胆な転換(2025年までに30車種以上のEVを導入、2035年までに全てのラインナップのEV化、2040年にカーボンオフセット実現)をコミットして世界的に大きな注目を集めた。今年もその基本的なストーリーに変化はなく、いわばチャレンジは継続中と理解したが、使用されている映像もいくつか昨年の基調講演と同一のものがあり、勢い、バージョンアップされた情報を注意して探るような聴き方にならざるをえなかった。

2年連続の登壇のメアリー・バーラCEO。「EVのプラットフォーム・イノベーター」業に「なりわい」革新を果たした時のビジネスモデルがどうなっているのか質問をしてみたい(出所:digital.ces.tech)

 筆者の気がついたCES 2022でのバージョンアップのポイントは以下の3点になる。

・<HOW>に相当する情報──EV化を促進させる手法について。Ultium(アルティウム)と呼ばれるバッテリーセルで構成されたEVプラットフォームを構築するために専用の工場を複数、新設する。Ultifi(アルティファイ)と呼ばれるゼネラルモーターズ独自の制御OSを2023年以降、導入する

・<WHAT>に相当する部分──配送の電動化を推進するFedEx、ウォルマートでのEV導入を加速させる。「シボレー・SILVER ADO」を近く発売する。このSUVタイプのEVはフルチャージで400マイルを走破する。今後、EQUINOX(SUV)、BLAZERの2車種のEVをローンチさせる。傘下企業で自動運転に取り組んでいるクルーズ(Cruise)社で2つのタイプ(Ultra Cruise、Super Cruise)の技術開発が進んでいる。キャデラックの新コンセプトにはエアモビリティ(空飛ぶクルマ)も視野に入れ開発をしている。

・ゼネラルモーターズの「なりわい」革新に関すること──自社は他社が追随できないポートフォリオを持つ。「内燃エンジンの自動車製造」業から「EVのプラットフォーム・イノベーター」業になる。