「屋上農園」「垂直農法」の特徴と違い

 都市型農業の代表的なソリューション「屋上農園」も「垂直農法」も、水・養分については土壌を使用しない水耕栽培、もしくは水気耕栽培(ハイポニカ:1970年、協和株式会社の創業者・野澤重雄により開発された栽培法)であることには変わりがない。こうした都市型農業のソリューションは「CEA」(Controlled Environment Agriculture)とも呼ばれる。

「屋上農園」と「垂直農法」との違いは、「農場」となる設備が置かれるロケーションと農作物を育てるための光の利用の仕方にある。

「屋上農園」の場合、その名の通り、高層ビル、工場、スーパーマーケット、エンターテインメント施設などの屋上に、温度や湿度などの環境を調節可能な大規模な温室を作り、平面的に栽培設備を設置する。光は主に自然の太陽光を利用する。栽培設備のたたずまいとしては、日本における温室を使ったレタス、カイワレ大根、豆苗などの水耕栽培に近いイメージだ。

「屋上農園」のメリットとしては、季節によらず年間を通じて農作物の安定生産が可能になること(年に十数回の収穫が可能)、生産に必要な水を約95%、土地を97%も節約でき、生産効率が極めて高いこと、ニューヨークやパリのような大都市圏のビルの屋上で生産可能なため、カーボンフットプリント(生産から輸送までのCO2排出量)が少なくて済むこと、無菌環境に保つことでサルモネラ菌など有害な菌から農作物を隔離できることなどが挙げられる。

 一方、「垂直農法」は完全な室内空間である。そしてその名の通り、垂直に組み上げる階層構造の設備を設営し、調整されたLEDライトの光を使って農作物を育てる手法だ。LEDライトの電源は通常、太陽光発電や風力発電など自然エネルギーで賄われる。

「垂直農法」のメリットは、「屋上農園」のメリットに加えて、完全な室内での生産のため、高温で極度に乾燥した砂漠地帯や寒冷地など農業に不適だった場所でも農作物の安定供給が可能になること、階層構造の生産設備にはコストがかかるものの生産者のニーズに応じて様々な規模で展開できること、などが挙げられる。

屋上農園と垂直農法の違い

米ゴッサム・グリーンズと仏アグリポリスの屋上農園

「屋上農園」で注目を集める2社を紹介しよう。

 米ゴッサム・グリーンズ(Gotham Greens)は全米8カ所で「屋上農園」を展開する、CEAに特化したフードテック企業だ。著名な農場の1つはニューヨーク・ブルックリンにあるホールフーズ・マーケット(健康意識の高いプレミアムスーパーチェーン。アマゾンが2017年に買収)の屋上にあることで知られている。

 年数十億ドル規模の米国のサラダ業界の中ではゴッサム・グリーンズのレタスの年間生産量は3500万個と業界シェア1%に過ぎない。ところが今回、新型コロナウイルスの感染拡大で全米の生鮮食料品のサプライチェーンが大混乱に陥ると、地産地消を有言実行する同社の売上は一気に上向いた。