JR大崎駅と直結するオフィスビル群の中の飲食店街にある。今後は地元の個人客の需要も想定する

 9月1日に「焼鳥IPPON」という店がオープンした。同店はDDホールディングスの連結子会社であるダイヤモンドダイニング(本社/東京都港区、代表/松村厚久)がフードテックのトレタ(本社/東京都品川区、代表/中村仁)とワンチームになって開発したということが喧伝され、今、何かと話題である。

 同店はJR大崎駅(東京都品川区)と直結するオフィスビル群の飲食店街にあり、需要のメインはオフィスワーカーのランチ需要、打ち合わせ等のティータイム、仕事帰りのディナーといったものだ。

「割烹」をイメージさせる和風モダンの内装。奥のスペースはすだれで半個室の空間ができるなど多様な利用に対応できる

 同店の最大の特徴は、接客上のオペレーションで発生する一つ一つを全てデジタル化していること。これまで現場業務は注文、会計と分断化されており、お客の側も店側のオペレーションに合わせることが必要だったが、同店を利用するお客はこれらをスマホ1台で完結できる。

 お客が同店で行う手順は以下の4点。店に入って席に通されると、①自分のスマホでQRコードを読み取り、デジタルメニューにアクセス。②メニューを選び、注文を送信(キッチンでは自動的にプリンターから調理指示が出力)。③食事終了後、クレジットカード情報を入力し会計。④会計後、必要に応じて電子レシート(=領収書)をメールで本人に送信する、だ。

焼き鳥は1本でも5本盛り合わせでも好みの串を、自分が選んだ味付けを注文できる

客単価3000~5000円の業態に向けた仕組み

「焼鳥IPPON」が開発された経緯について、ダイヤモンドダイニング取締役副社長の鹿中一志氏はこう語る。

「昨年、コロナ禍となって、われわれはこの影響はしばらく続くだろうと考えました。そこで、われわれのアルコールビジネスはどのように変化していくのか、自社の予約システムなどから飲食業の動向を分析するトレタさんに相談したことから、この計画は動いていきました」

 トレタ側では、大きなトレンドをつかんでいた、それは「コロナ禍にあっても、高単価業態や専門店、超繁盛店には予約が入っている。オフィス街の3000~5000円あたりの宴会は予約が戻っていない」ということだった。予約が戻ってきていない領域とは、まさにダイヤモンドダイニングが課題としているところ。

 そして、当時、トレタでは新しいモバイルオーダーの仕組みを開発していた。新型コロナウイルスのワクチン接種が進んで、飲食店に客足が戻り、反動需要が期待される中での、客単価3000~5000円あたりの業態に向けた仕組みづくりである。

 この2つが合わさり、「アナログの接客を超えた」「おもてなしも実現する」という飲食店DXのサービスが誕生。今年の7月26日に「トレタO/X(トレタオーエックス)」としてリリースされた。

 トレタは業界に先駆けて飲食店の予約システムを開発し、飲食店の多くが予約台帳を紙からデジタルに切り替えるきっかけをつくった会社。その発想で、店での注文、会計まで、「食事をする」リアル以外の部分をオンラインにしたというのが「トレタO/X」である。

従業員に「すみませ~ん」と声を掛ける必要がなく、従業員はお客に穏やかに丁寧に接する

オフィス街宴会から地元の人も利用する店へ

 開発途中の構想についてダイヤモンドダイニング側ではどのように受け止めたのか。鹿中氏はこう語る。

「われわれは業態開発には自信があります。しかしながら、単独で店をつくろうとすると、これまでの延長戦上の発想しかできず、新しいシステム・テクノロジーを導入しても最適な環境は実現できないでしょう。トレタさんのアプローチに大変刺激を受けたこともあり、それならば、トレタさんとゼロベースから取り組んで、お互いの得意な領域を生かし、知見を出し合って、お店をつくり上げていくのがベストだと結論付けました」

 では、その業種がどのようにして「焼鳥」となったのだろうか。

「業種はしばらく決まっていませんでしたが、外食するときのストレスを解消するという観点で焼鳥店でのストレスがとても多いことに気付きました。複数人で利用した場合、味付けはたれがいいか塩がいいか、ねぎまを食べたいが頼んでいいか、1本を複数人でシェアする、ワリカンが面倒だ・・・という具合。また、当社にはブラッシュアップが必要な焼鳥業態があり、これをリブランディングするという発想もあった」

 場所が「大崎」となったのは、なぜだろうか。

「この店は以前、当社の肉バル業態でオフィス街宴会が主でした。肉バルはオーナーが店にいてこだわりのメニューを出すのが強みなのにチェーンとなれば弱くなる。オフィス街宴会の場合は店の稼働時間が短くて土日が利かない。こういうことが以前からの課題でした。その一方で、大崎というエリアは地元住民も多い街です。そこで夕方4時ぐらいから営業して、土日は地元のお客さまが散歩ついでに立ち寄るというシーンをイメージしました」

どんな時も自分好みに「カスタマイズ」

「焼鳥IPPON」の注文の仕方では、自分好みにできる「カスタマイズ」と時間帯ごとに価格が変動するドリンクの「ダイナミックプライシング」の2つもポイントになっている。

 例えば、「焼鳥」は自分好みの部位と味付けを選ぶことができる。だから、同席している人同士が「5本セット」を注文しても、それぞれ内容を変えることができる。価格は部位別のものが1本165円、つくね・巻き串は280円、5本盛り合わせは880円。単品メニューは鶏を使用したものが中心で、380円、400円、450円、480円、500円、550円、600円で構成。現状、メニューには複数で取り分けるものはなく、全てお1人様対応のボリュームとなっている。

 サラダ、ラーメンもカスタマイズ可能。「私のサラダ」550円はベースの野菜に8種類の野菜から3種類、ドレッシングも3種類から選択。「鶏白湯ラーメン」550円はスープ2種類、麺2種類から選択。追加料金でトッピングもできる。

 「レモンサワー」のカスタマイズは、まず「お酒の濃さ」で「ノンアル」「ごく薄」「薄め」「普通」「濃いめ」から選択。次に「レモンの種類」は「フローズン」「スライス」「塩漬け込み」から選択。そして「トッピング」は「ハチミツ」「ジンジャー」「ソルト」から選択する。

レモンサワーのダイナミックプライシング。最大で20%の価格差を設けている

 このレモンサワーで行われるのが、「ダイナミックプライシング」だ。通常価格は「550円」だが(19:00~19:59)、1時間ごとに繰り下がる、ないし繰り上がるごとに5%オフ、10%オフ、20%オフとなっていく(例えば、16:00~16:59と22:00~22:59は20%オフ)。これにより、店内の混雑状況の平準化が期待され、またこの仕組みをフードメニューに導入することでフードロスの解決にもつながる。

 筆者は同店がオープンしてから、ランチタイム、ディナータイムともに訪ねた。そこで体験したことを、最後に記しておこう。

 ランチタイムは、「当日精米したごはんと鶏だしみそ汁御膳」1000円(税込)の1品目のみだが、主菜は3種類から1品、副菜は5種類から2品選ぶ。これに全て玉子焼きと漬物が付く。自分のスマホでオーダーして、すぐに決済。オーダーしたメニューは10秒たたずに運ばれてきた。店に入って食事をすぐに終えることができ、食事後にレジに並ぶ必要もない。

ランチは1品目のみだが、主菜・副菜ともに数種類から選ぶようになっていて日替わりのカスタマイズができる

 ディナータイムの場合、注文は1品ずつデジタルメニューにタッチすることになるので、従業員に「すみませ~ん」と声を張り上げる必要がない。従業員はみな穏やかで、デジタルメニューの使い方などを含めて丁寧に対応してくれた。

 「焼鳥IPPON」はどんな店か。象徴的にいうと「すみませ~ん」という言葉が存在しない店。お客も従業員もイライラすることのないストレスフリーの飲食店である。