芝大門店は旧ダイエー本社が入居していた通称“軍艦ビル”のはす向かい。平日のオフィスワーカーの需要が見込まれる
一度体験した人がリピーターになっていく
「やっぱりステーキ」というステーキハウスが今、快進撃を続けている。2015年2月、1号店が沖縄県那覇市に誕生し、最新店はこの9月5日オープンした四日市生桑店(三重県)で76店舗目となる。
同チェーンの一番の特徴は「1000円ステーキ」。これに「食べ放題」のサラダ・スープ・ご飯が付いている。「食べ放題」だからいくら食べてもいい。今日でいうところの「無限」である。大食漢にとってはとてもありがたいところだし、逆に、ご飯は食べなくてもいいので糖質制限の人にとってもうれしい。
肉は基本的に赤身肉。ランプ、ヒレ、ミスジ、イチボといった部位ごとにグラム数と価格が異なるが、基本は「1000円ステーキ」である。これらの赤身肉はとても柔らかいので高齢者にも歓迎されている。
やっぱりステーキでは、注文したステーキは熱した溶岩プレートの上にレアの状態で運ばれてきて、お客は好みの焼き加減で食べる。味付けもテーブルに置かれた約10種類の調味料で好みに仕上げられるので、「次に食べに来た時にはこのソースにしてみよう」という気分にもなる。だから、一度体験した人がリピーターになっていく。
テーブルに調味料が約10種類置かれ、お客が自分の好みの味付けをする
筆者は9月13日の14時ごろ、8月2日オープンした芝大門店(東京都港区)で食事をしたが、20代前半の女子2人組が300ℊのミスジステーキ(2300円/税込、以下同)を平らげていた。こんな具合に、老若男女から愛される条件が整っているステーキハウスなのだ。
家賃比率を5%にし、その分、原価をかける
やっぱりステーキを展開するのはディーズプランニング(本社/沖縄県那覇市、代表/義元大蔵)。2015年2月、那覇市内の繁華街に3坪6席の規模で1号店をオープンした後、居抜き物件等を活用して店舗展開を進めてきた。
基本は「家賃比率5%」、一般的な飲食業の「家賃比率10%」より水準を引き下げ、その分、原価をかけるという戦略だ。それは家賃が安いところに店を出すという単純な話ではなく、家賃比率5%を実現するエリアと物件を見極めるという注目すべきノウハウになっている。
同チェーンではこの8月2日、東京都港区に芝大門店をオープンした(75店舗目)。東京都下では、2020年6月にオープンした吉祥寺店、2021年2月の蒲田店に続いて3店舗目。
オープンは11時だが、オープン前からウエーティングができる
筆者は昨年、吉祥寺店がオープンしたときから義元代表に取材しているが、義元氏は蒲田店のオープン時に「この店はたまたま大田区での出店となったが、今後、東京では23区内に出店しない」と語っていた。それが芝大門店という、東京23区内の中でも最も家賃が高そうな「港区」に出店したのである。なぜ、前言を翻して都心に出店したのだろうか。
芝大門店では「前払い」を「後払い」に変更
芝大門店は約20坪で27席。元カレーチェーン店の物件の店舗造作を生かし、厨房設備やエアコンを入れ替えた。場所は通称“軍艦ビル”のはす向かい。周辺はオフィス街でランチを中心とした需要が見込まれる立地だ。
早速、筆者が義元氏に取材をしたところ、義元氏は「芝大門店はDXの実験店」と述べた。大きな特徴は非接触の要素を多くしたこと。以下、お客が同店に入店してからのサービスの仕組みを箇条書きで記す。
店頭に置かれた自動受付機。ここでチェックすると、自分の前にどれくらいのウエーティンがあるか分かる
①入店前に「自動受付機」に人数などを入力する(すると、番号が記された紙がプリントアウトされ、自分の前に何人がウエーティングしているかが分かる。また、QRコードを読み取ると、入店の順番になったときに、それをLINEで教えてくれる)
②入店できるようになると、従業員から番号で呼ばれる(もしくはLINEで知らせてくれる)。
③従業員に誘導され席に着いたら、「タッチパネル」でオーダーする(ステーキの種類。食べ放題のサラダ、スープ、ご飯を注文する)
④注文した料理が従業員により運ばれてくる。
⑤食後にタッチパネルで会計をすると、従業員がレシートを持ってくる。
⑥レシートを持って「セルフレジ」で精算する。
芝大門店の店内。タッチパネルの活用でお客はゆったりした気分で食事ができるが、店内は小気味よく回転していく
これに対して、やっぱりステーキの一般的な既存店では次のような仕組みである。
①入店すると「自動券売機」の画面をタッチ。希望の料理やドリンクなどを選び、精算を行い、食券を入手する。
②従業員に誘導され席へ着いたら、従業員に食券を手渡す。
③席を立って、食べ放題のご飯、サラダ、スープをコーナーに取りに行く。
④注文したステーキが従業員により運ばれてくる。
⑤食事を終えたら、そのまま店を後にする。
やっぱりステーキでは新規出店のたびに、例えばセルフレジや配膳ロボットを導入するなど、デジタル化の要素を少しずつ加えていったが、芝大門店ではさらに改善が加えられた集大成となっている。
芝大門店のサービスの仕組み(上)を既存店のもの(下)と比べると、その違いは「注文」と「精算」にあることが分かる。
注文は、既存店では「自動券売機」で行い、芝大門店では「タッチパネル」で行う。自動券売機を使う場合は入店時に精算する前払い。画面を見ながら「どのステーキにしようか?」と思案しているときに、後ろに人に並ばれるとせかされているような気分になり、落ち着いて考えられなくなるのが一般的な人の情ではないか。この場合の客単価は1300円とのこと。
タッチパネルの様子。メニューは基本「1000円ステーキ」で部位やグラム数で価格が変わる
それがタッチパネルの芝大門店では、精算は後払い。席に通されてタッチパネルを操作しながらゆっくりとステーキを選ぶことができる(芝大門店ではタッチパネルに後述するオリジナルチャンネルの効果で、客単価が高まると想定している)
芝大門店では「後払い」を採用、精算はセルフレジでお客が行う
さらに「サラダ、スープ、ご飯」の食べ放題の部分で、芝大門店ではお客が席を立つ必要がない。既存店と比べると、食べ放題にお客が集まるという「蜜」はなくなり、狭いフロアをお客が行き交うということがない。安全・安心な食空間が担保され、ゆったりと食事を楽しむことができる。
ステーキは赤身肉が中心。オープン記念として「熟成アメリカンステーキ」200g1500円が導入された
出店できる立地や物件が広がった
やっぱりステーキが人気を集めるもう1つのポイントが、「もうちょっとお肉を食べたい」という動機に向けた「替え肉」があることだ。例えば、「おすすめ赤身ステーキ替え肉」は100g500円、「ヒレステーキ替え肉」は100g750円、「BAサーロイン替え肉」100g800円という具合。
「ステーキをもうちょっと食べてみたい」という動機に向けて「替え肉」をラインアップしている
替え肉というメニューがあることは初めて来店した人にとっては分かりにくいが、同店ではBGMにオリジナルチャンネルを設けて、その番組のDJが「替え肉はいかがですか?」と宣伝している。お客にとっては、ゆったりとした気分のままで、DJのトークから替え肉の存在に気付く、ということだ。
義元氏によると「タッチパネルとオリジナルチャンネルの効果によって、客単価は1800円ほどになる」と予想していた。つまり、デジタル活用が顧客満足度を高め、客単価が上がる仕組みをもたらすということだ。
義元氏は芝大門店のオープン当初の営業状況を捉えて「月商1200万円以上のペースで行くでしょう」と読んでいた。これでやっぱりステーキの「家賃比率5%」は十分に保つことができるというが、これもデジタル技術を活用していることが要因となっている。
つまり、既存の客単価1300円では家賃の低い立地や物件を探していたが、デジタル活用で生産性が高まることによって比較的、家賃が高い立地でも「家賃比率5%」をクリアでき、出店が可能になる、ということだ。
やっぱりステーキの仕組みは全店舗が一律ではなく、出店立地、物件に応じて適宜、改善がなされてきたわけだが、このような地道な取り組みを重ねてきた上で「実験店」の芝大門が誕生した。今後の展開では、さらなる顧客満足と生産性の向上のためにデジタル技術の活用が進められていくことであろう。






