IoTやAI、5Gなど、テクノロジーがビジネスにさらなる革新をもたらしている。これは小売業界も例外ではないが、その一方で、GAFAをはじめとしたビックテック企業の標的となり、旧態依然としたビジネスのやり方では生き残りが難しい状況も起こっている。コロナ禍からの復興を期する日本にとって、デジタルシフトした小売りが内需を刺激する大きな立役者となれるのか? 一橋ビジネススクールの鈴木智子准教授が、小売業界の未来について語る。
※本コンテンツは、2021年9月17日に開催されたJBpress主催「第5回 リテールDXフォーラム」の基調講演「デジタル時代の小売戦略」の内容を採録したものです。
デジタル時代の小売業界にある、2つの未来シナリオ
「デジタル革命は小売業を大きく変革しています。小売業界は、今、2つの未来シナリオに直面しています」と鈴木氏は話す。2つの未来とは次の内容だ。
1つ目が、小売りがなくなってしまうシナリオだ。これは「小売業不要論」とも呼ばれ、メーカーやサービスプロバイダーが小売りを介さずに、直接、消費者に商品を提供する仕組みがもたらす状況を指す。例えば、ある大手消費財メーカーでは、洗濯機の洗剤が切れそうになると、AIが察知して発注から補充まで自動で行う取り組みが、既に実験段階に入っている。そこに店舗で洗剤を売る小売りのプロセスは介在しない。
2つ目は、新しい小売りフォーマットの出現というシナリオだ。未来の小売りは、従来のようにモノを売る場所とは限らず、さまざまな形態が出現する。例えば、新製品のデモンストレーションを行う店舗やローカルコミュニティを活性化するコミュニティストアといったように、あらゆる形態の店舗がひしめき合う。
この第2のシナリオについて鈴木氏は事例を紹介する。
「このような小売形態の多様化は、既に始まっています。例えば、シリコンバレー発『ベータ(b8ta)』は、世界中の最新ガジェットを発見・体験・購入できるスマートストアです。
同店の最大の特徴は、販売に主眼を置かず、商品の体験に重きを置いていることです。来店した消費者は、商品を実際に手に取って心ゆくまで試すことができ、気に入った商品はオンラインストアから注文できるようになっています。現在、同じような展開は他にも見られます」
日本でもさまざまな挑戦が行われている。例えば、テクノポップユニットのPerfumeが企画・プロデュースするファッションプロジェクト「Perfume Closet」は、トラックの荷台が店舗になっており、それが各地を回っていくというユニークな取り組みだ。
「このような新しい小売りのフォーマットも登場してきており、小売業界の競争が激化していることは明らかです。もちろん、既存の小売企業も手をこまねいているわけにはいきません。テクノロジーを活用して新たな小売りの姿を模索しています」