※本コンテンツは、2021年9月17日に開催されたJBpress主催「第5回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅰ「売上3000億企業のDXの実際〜現場で使われるDXとは〜」の内容を採録したものです。

 大きな組織であるほど、DX推進には困難が伴う。実行には従来の業務プロセス改革とは異なり、文化や風土、組織、制度、権限、人材など多岐にわたる変革が求められるためだ。コープさっぽろでは、複数の企業で数々の改革を行ってきた長谷川秀樹氏をCIOとして招き、このテーマに挑んだ。そのための取り組みを長谷川氏が語る。

3ステップでコミュニケーションのDXを推進

 生活協同組合コープさっぽろは創業56年を迎え、事業高(売上高)は3000億円規模を誇る。歴史があり、組織が大きいため、体質には改善を要する部分も多いわけだが、DXの指揮を執ったCIOの長谷川秀樹氏が、まず行ったのはコミュニケーションにおけるDXだった。

 コープさっぽろでは、それを上図のように大きく3つのステップで捉えている。ステップ1からステップ2にかけては、紙や電話を介した業務をPCに置き換えていく動きであり、分かりやすい。しかし、ステップ2とステップ3はいずれも主にPCを介して業務が行われるため、DXのメリットも含めて、違いが理解できないという人もいることだろう。

「実際にはステップ2のCドライブ内を主体として行う業務と、ステップ3のオンラインを活用して行う業務は全く異なります」と長谷川氏は話す。コープさっぽろでは、オンラインを介してリアルタイムで情報を共有、円滑にコミュニケーションを取りながら業務を推進する環境を整備し、DXは既に「ステップ3」の段階に至っているという。

 コープさっぽろでは、データセンターやネットワークなどのテクノロジーインフラの整備だけでなく、SlackやGoogle Workspaceなどの導入をはじめとしたコミュニケーションインフラの整備を推進してきた。
「一般的なDXの事例には経費精算システムや勤怠システムなど、アプリケーションの導入によるものが多くあります。

 しかし、実際にはホワイトカラーの職員の業務の多くはコミュニケーションを軸として回っています。財務や人事など、特定部署を除くほとんどの職員にとって、このような自動化アプリケーションを活用するシーンは、日常業務のほんの一部にすぎません。

 ですから、プロセスを自動化したところで、全体の生産性向上に与える効果は実は限定的です。むしろ、職員が日常的に行う社内会議など、コミュニケーションの生産性を高めることが大切なのです」