トップダウンとボトムアップの両方向から推進

 ジョンソン&ジョンソンには、「DE&I推進室」のようなDE&Iを普及させるための特別な部署は存在しない。いったいどのようにして社員一人一人にDE&Iの文化を浸透させているのだろうか。

「社内の一部の人だけが担当するというやり方では、逆に根付かないかもしれません」(工藤さん)

 同社では、グループの経営層がDE&Iのコンセプトや取り組みを会社の文化の中核にしていくと強いコミットメントを表明しているという。そして人事部も、DE&Iを推進していくためのサポート体制を整えたり、ガイドラインを整えたりする。一つには、このようなトップダウンの流れがある。

 ユニークなのは、それに加えてボトムアップの流れもあることだ。それは、有志が集まって運営するERG(Employee Resource Group)という活動だ。ERGには、現在、4つのグループがある。2005年に発足した女性が働きやすい環境づくりに取り組むWLI (Women’s Leadership & Inclusion)、2015年に誕生したLGBTQ+に関する理解を深めるO&O(Open&Out)、2019年には障害やメンタルヘルスを対象にしたADA(Alliance for Diverse Abilities)、そして今年、いろいろな世代の価値観や経験を大切にする「GenerationNow」が生まれた。

 いずれのグループも、メンバーは当事者でなくても構わない。例えば、女性の働きやすい環境づくりを目指すWLIのメンバーの半数は男性だ。一方、LGBTQ+を対象にしたO&Oのメンバーは、カミングアウトしている人もいれば、していない人、サポートするために入っている人、LGBTQ+について理解を深めるために入った人などさまざま。当事者が何人いるのかといったことではなく、さまざまな立場で支援を行い、当事者が働きやすい環境を皆で作ろうという動きがある。

「男女のような目に見える多様性もあれば、LGBTQ+やメンタルヘルスのような目に見えない多様性もあります。特に目に見えない多様性は、対峙する方が当事者であるかどうかが分からないことがあるので、配慮しながら活動していく必要があります」(工藤さん)

 ジョンソン&ジョンソンでも、ERGグループの発足当初は具体的に何をしていくか試行錯誤のこともあるが、メンバーが増え、理解が深まるとともに必要なサポート、整えるべき制度などがさらに明確に見えてくるという。

 多くの場合、当事者以外は、そもそも何に困っているのかも分からないことも多い。だから一人でも多くの社員に理解してもらうために、どのグループも、活発に、メンバー以外の社員に向けた勉強会やワークショップなどを開催している。そもそもDE&Iとは何かといったところから講義を始めるグループもある。

 ERGの活動は、世界中のジョンソン&ジョンソンで行われており、本社のアメリカでは12グループが活動している。日本にはない人種に関わるテーマのERGなども活動しており、興味があれば日本から参加することも可能だ。

 また、そうした活動の中で、日本にも導入したい活動があれば、自分がリーダーとして日本での展開プランをつくり、日本法人グループの社長会に提案できる。承認が下りれば予算もついて発足するという仕組みだ。ERGの活動は、企業文化をつくっていく大切な活動なので業務時間内に行うことになっている。