労働安全衛生管理のしくみを機能させる

 皆さんの会社でもリスクアセスメント、ヒヤリハット、安全パトロール、KYなど安全リスクを対象にした労働安全衛生に関する活動を実践されていると思う。これらの活動は、現場の危険源を抽出、安全リスクとして認識し、何らかの対策を行うという目的は同じだと考える。

 皆さんの目から見て、自社の労働安全衛生活動はうまく機能しているだろうか。筆者の経験から、これらの活動がうまく機能していない典型例を挙げてみたい。

◆ それぞれの活動が連携していない
 リスクアセスメント、ヒヤリハット、安全パトロールなどの活動がそれぞれ別々に展開されており、連携が取られていないケースである。このようなケースでは、それぞれのしくみで安全リスクが抽出されているが、その情報が相互に共有されていない。

 これは、自社の安全リスクが一元管理されていない状態である。どんなしくみでもよいが、「自社が認識した安全リスクはここ(例えば、リスクアセスメント表)を見れば全て明確になっている状態」を作るべきだと考える。このことで、労働災害やヒヤリハット、安全パトロールで認識された問題が過去、安全リスクとして認識されているかどうかの検証をしやすくし、その結果によって、どのような対応をすべきかが見定めやすくなる。

<認識されていないリスクに対する対応>
・改めて安全リスクとして認識し、リスク低減策を講じる。
・安全リスクとして検討漏れがあったこと自体が問題であれば、今後の安全リスク抽出の視点、手法などを見直す。

<認識されているリスクに対する対応>
対策は妥当だが、現場で安全リスク対策が守られていない場合
・「対策内容の再確認」「順守徹底」の意識付け、教育を行う。
安全リスク対策自体が不十分、守りにくい内容の場合
・対策内容自体を見直す。

◆ よく見せるための活動になっている
 リスクアセスメント活動を展開していると起こりがちなことだが、活動の結果をよく見せようと、対策内容に見合わないくらいリスク値を下げた評価をしているケースが散見される。対策の結果、大幅にリスク値が下がるに越したことはないが、本稿でも紹介した安全対策のレベル1や2の対策だけではリスク値がほとんど下がらないこともあり得る。

 リスクアセスメントなどの安全リスクの評価、対策活動において重要なことは、もちろん、安全リスクを低減させることであるが、もう一つ重要なことは「残存する安全リスクを組織で認識する」ことである。対策を打ってもリスク値が下がらない、今後、もしかすると事故が起こるかもしれないリスクを自社・自職場で認識し、どう管理するかということが本当の安全リスク対策ではないだろうか。

 「残存リスク」を認識した上で、現場の管理監督者が常日頃からその安全リスクに目を光らせる、安全パトロールで定期的にチェックする、その安全リスクを含む作業を行う前にKYを行って意識付けするなど、さまざまな労働安全衛生活動を連携させながら、管理的な対策を取ることも可能である。

 本稿では、「人的資源の充実」を労働安全衛生という切り口から述べた。安全安心な働きやすい職場づくりの第一歩として、皆さんの会社や職場での活動や改善の一助になれたとしたら幸いである。

コンサルタント 大西弘倫 (おおにし ひろみち)

生産コンサルティング事業本部
品質革新センター チーフ・コンサルタント

安全・安心ものづくりのための製造品質向上や顧客から信頼されるサービスを提供できる業務品質向上、労働安全管理レベル向上をねらいとしたヒューマンエラー防止のテーマに取り組み、ヒューマンエラーに強い職場づくりを目指す未然防止型改善活動のコンサルティングを推進している。
(著書)ヒューマンエラーの発生要因と削減・再発防止策」共著 (技術情報協会)など