実際、今回FATFが公表した第4次対日相互審査でも、「指定非金融業者及び職業専門家(Designated Non-Financial Business and Professions,DNFBP)」に関する評価に多くの字数が割かれ、これらのマネロン対策が必ずしも十分でない旨指摘されています。
マネロン規制との長い付き合い
このように、マネロン規制の広がりは、キャッシュレスやデジタル技術革新、ノンバンクなどの金融サービスへの参入などと表裏の関係にあります。このため、マネロン規制の重要性は今後も、高まることはあっても低下することはないでしょう。
この中で、以下の点に留意していく必要があります。
まず、技術革新は、マネロンの手口をますます巧妙にしていく面もあります。これに伴い、マネロン対策や規制のコンプライアンスの負担も、放っておけばどんどん大きくなりがちです。そうなると、これらのコストを嫌って、送金業務、とりわけ国際送金業務から撤退してしまおうという機運も出やすくなります。しかし、マネロン規制によって、必要な送金までできなくなってしまっては意味がありません。
したがって、犯罪などへの必要な対応をしながら、金融機能も維持していくには、マネロン対応において、業界で協力できる部分はなるべく協力するとともに、デジタル技術を積極的に活用し、疑わしい取引の識別へのAIの活用や当局との情報共有などを通じて、マネロン対策や規制対応のコストを引き下げていく取り組みが重要となります。
また、「高額・瞬時の支払いに使え、かつ、現金同様の匿名性を備える」といった旗印を持つ支払手段が登場すれば、それは直ちに、マネロン規制の問題にも直面しやすいといえます。この観点からは例えば、本年話題を集めた、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化については、そのボラティリティ(価格変動率)の問題に加え、「マネロンや脱税、地下経済への対策はどうするのだろう」という点も気になるところです。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。