便利さと情報管理への抵抗の間で心が揺れる

 ただ、香港のIDカードは完全に銀行口座や携帯番号などとひも付けられていることを記しておきたい。日本政府は1人1口座の登録義務化の方針を見送る一方、ワクチンの接種記録と日本政府が導入を決めたワクチンパスポートはひも付ける。将来、新たな感染症が流行したとき、接種記録とワクチンパスポートはマイナンバーにひも付いていても不思議ではない。

 日本と香港の両方の身分を持つ者としては、国に個人情報を一元管理されないことは、各種サービスの提供が香港より質が落ちるとしても、個人情報が個別でしか把握されていないという安心感がある。一方、香港ではIDカード1枚で各種サービスを迅速に得られるので便利だが、香港政府にかなりのレベルで個人情報を把握されているだろうな、と考えると、どこかモヤっとするときがある。

 自分がどのレベルまで受け入られるのかを考えておくことはとても重要であり、国民全体のコンセンサスづくりは肝要だ。日本政府は2022年末にはほとんどの国民がマイナンバーカードを取得することを目指しているので、公共サービスはマイナンバーカードだけで済ませられるようにし、できるならばスマホだけで手続きを完結できるレベルにまで高めたいということだろう。

 マイナンバーカード普及の最大のネックは、監視社会への懸念の強さだが、プライバシーの保護にも十分配慮し、銀行の口座情報や所有する土地の情報など私有財産に関わるものは、ひも付けるかどうかを選択制にすれば国民の理解が得られやすいと思う。

 そうしてマイナンバーカードの普及を進めれば、再び、給付金を配布することがあればスムーズになるだろうし、自然災害が多い日本では、何か災害が発生したときの身元確認などにも役立つはずだ。

 ちなみに、この香港のIDカードの原形は第2次世界大戦中、日本軍が香港を一時占領していた時に、身分証の制度を作ったことから始まる。住民票の制度がないことから、軍が実態を把握して統治しやすくするために創設したもので、終戦後はイギリス統治下に戻ったが、1949年になると、当時の香港政庁も今の形の身分証システムを法律として制定したという背景がある。