任意性のマイナンバーカードと強制性の香港IDカード

 まずは10万円の特別定額給付金の時に混乱が生じ、再び、焦点が当てられたマイナンバーカード。香港でも日本と同じように2020年に給付金が支給されたが、大きな混乱は起こらなかった。しかも、香港では給付金が個々の口座に振り込まれたため、世帯主がお金をキープして配偶者や子どもが受け取れない、ということもなかった。

 その理由は、香港では一人一人に香港版マイナンバーカードとなるIDカードが発行されるからだ。香港では自宅から100メートル以上離れるとき(つまり、外出するとき)はIDカードを携行しなければならず、違反すれば最高で6000香港ドル(約8万5000円)、または1年の禁固刑となる。

 このIDカードは銀行の口座開設、携帯電話や電気・ガス・水道などの申し込みから、どこかの民間企業の店舗会員になるまでほとんどの場合に必要となる。香港国際空港での出入境もパスポートではなく、このIDカードを使うほどで唯一無二と言っていい身分証明書になっている。

 日本では、運転免許証や健康保険証も身分証明書となるため、マイナンバーカードの普及率は34.2%(2021年7月1日現在)と、依然として低い状態にある。日本のマイナンバーカードは任意であり、個人で交付の申請をしなければならないが、香港生まれの人は政府からIDカードが交付される仕組み。移民、駐在員、留学生なども香港入境後、当局に赴いてIDカードの申請しなければならない。

 日本の任意性と香港の強制性の違いではあるが、政府による強制力があればデータは一元化へと向かっていき、各種サービスを受給するとき、手続きが簡単で混乱が少なくなる。

 先ほど紹介した香港での給付金。香港での申請は自分が口座を持っている銀行のホームページから登録するという方法だった。日本とは違い、役所から申請書の紙は届かない(紙の申請書も用意しているが、当事者が口座を持っている銀行に取りに行き、必要事項を書いて銀行に再び持ち込む)。香港で暮らす複数の人に聞いてみたが、登録申請は3分かかないほど簡単で、もちろん確実にお金が振り込まれていた。

 2021年8月1日からは永久居民を対象に5000香港ドル(約7万円)の電子マネーの給付も始まった。電子マネーは消費に向かいやすいので新型コロナで落ち込んだ経済を刺激しようとする狙いがある。こちらは香港政府が開設した専用サイトから登録するが、給付金と同じように必要事項を登録するだけだったので、数分で登録できた。