――なるほど。"推し"なんですね。具体的な"推し"との出会い、取材に至るプロセスについて教えてください。
酒井 私は結構、仕事が好きで、普段からずっと仕事をしているような感じなんですが、その中で面白いなと思ったものにふらふらっと近づいていくところがあるんです(笑)。この本で取材している人たちとの出会いはそれぞれなんですが、例えば、音声合成の事業を展開しているアクロスエンタテインメントとは、運営の仕事で入っていた音声合成のイベントを通して出会いました。すごく面白いなと思って、いつか何か一緒にやりたいなと思ったのがベースになっています。
面白いと思ったのはまず、声優事務所なのに合成音声の開発に積極的に関わっているという在り方ですね。声優事務所にとってはディスラプターとなり得る技術をなぜ積極的に取り入れようとするのか。声優文化は長い歴史があるし、俳優さんの領域は結構、不可侵的なものですよね。それでもAI声優をやるってどういうことなのかと。そのチグハグさが面白いなと、まず思いました。
そして、少し調べていくと、心の話になるんです。実はこれは、アクロスエンタテインメントで音声合成のプロジェクトを進めている松木靖卓さん、彼が東日本大震災でエンタメにできることを考えていたとき、仕事仲間だった浅見敬さんという方と再会して「スマートスピーカーで好きな声優さんと会話ができたら人を笑顔にできるのではないか」とAI声優を作り上げていくというストーリーなんです。キッカケと出会う人が交わったときにすごくいい相乗効果があってイノベーションが生まれるみたいなところがすごく面白いなと。そんなふうに、自分が面白いなと思ったことを伝えたいと思うんですよね。
たぶん人と人との出会いとか、興味を持ったことを一生懸命やるとか、そういう本質的なことがDXだったりとかイノベーションには非常に重要だということを伝えたかった。これを直接のメッセージで伝えるのではなく、エピソードトークで伝えたかったというところがあります。
――DXも本質は人と人の出会い、そこからイノベーションが起こるのだというところなんですね。この本で取り上げている人たちは継続的に取材をされたんでしょうか?
酒井 そうですね、長期的な付き合いですね。1時間、2時間の取材をしたというより、一緒にイチゴ狩りに行ったり、焼き肉に行ったり、ワーケーションをしたり、この本にも登場するイカセンターに行ったりとか、そういうことを一緒にしているメンバーではあるんです。仕事を一緒にやったりというケースもあります。普段話していることとか、飾らない部分を見てきてはいるので、そういうところが、もしかしたら行間から現れているのかもしれません。