MTPをかなえる3つのステップ。DX3.0事業モデル変革
事業モデルに関して、着目すべきキーワードが「コモディティ」です。『ビジネスモデル・ナビゲーター』(著者:オリヴァー・ガスマン、カロリン・フランケンバーガー他)という本には、スイスの大学で5年間かけて世の中の全てのビジネスモデルを調査した結果、「55パターンしかなかった」ということが書かれています。実はビジネスモデル自体が、コモディティだったのです。
55パターンの中からビジネスモデルを選び、いかに迅速に立ち上げ、スケールする規模に持っていけるかが、重要なのです。一時期はリーン&スタートアップという言葉が流行し、その結果、スケールしない無駄なものが多く出てしまいました。そこで最近はリーン&スケール、小さく生んで大きく育てることが重要視されています。
ただし、企業が事業開発のアルゴリズムを持っていることが必要です。例えば、リクルートは0→1、1→10、10→100へと事業を育てる9つの方程式を持っています。この場合の100というのは単なるマネタイズではなく、世の中のデファクトスタンダードになるということです。一方、0→1はエッジで起こる「ゆらぎ」です。0→1を量産するよりも、これを100に持っていく方が重要です。
次のキーワードとして「無形資産の時代」があります。今、企業価値の内訳の9割近くが無形資産であるとされています。ブランド、知恵、人材、ネットワークといったバランスシートに載らない価値です。
例えば、味の素のアセットトランスフォーメーションでは、「物的資産」「金融資産」「人財資産」「顧客資産」と自社の資産を区分けし、真ん中には「組織資産」を置いています。組織資産とは企業としてのこだわり、味の素ではASV(Ajinomoto Group Shared Value)と定義したものです。下図右下の枠の「人財資産」に注目してください。ここにPX(People Transformation)1.0、2.0、3.0とありますが、内容がDX1.0、2.0、3.0と同じになっています。デジタルのツールを、業務に精通した「人財」が使いこなせることを目指すことを掲げています。
さらにその上には、CXがあり、その隣の物的資産には「アセットライト」があります。これは前項の三角形で述べた底の部分に当たります。物的資産を減らすことで、ROA(Return On Assets=総資産利益率)が上がり、その下の金融資産の価値が増えます。こうした取り組みが評価され、同社の株価に表れてきています。

最後のキーワードが「両利き経営」の落とし穴を克服することです。ジョン・P・コッターが提唱する「デュアルOS組織」は、「知の探索」と「知の深化」をつなぐモデルです。探索し、かつ深化もする人が往来できる組織が必要なのです。
また、この概念を進めて、自律と同時に規律を保つ「動的平衡」モデルもシリコンバレーで取り上げられています。さらに、時間軸の両利きとして、短期・長期と両方で見る「複眼思考」もあります。日本企業は中期目標に注力しがちですが、世の中の変化は速く、3年や5年先の計画など当たるわけがありません。もっと先、2050年のような長期を見据え、そして短期をよく見て厳しい経営をすることが大事です。
MTPをかなえるには、3つのアプローチが欠かせません。1つ目はパーパス(Why)の設定。「わくわく」「ならでは」「できる」といった自身の言葉で目指す姿を語ってください。冒頭で紹介したトヨタ自動車の「ワクドキ」のようなものです。2つ目は異次元の成長を阻む自社特有の課題の抽出(What)、自社を振り返り「クセ」を見付けてください。「やってるつもり」病のような病気はありませんか。
そして最後の3つ目は、課題解決アプローチの設計(How)。2つ目で見つけた病気を治し、MTPへの間(ギャップ)を埋めることです。このステップを踏んでいくことで、おのずと答えが出るのではないでしょうか。今回、パーパスを主軸に置いた経営について、要点をお伝えしました。拙著『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』なども参考にしていただき、Why、What、Howを問いながら、変革を進めていただきたいと思います。
