鍵を握るデジタル技術

 とはいえ、このようなメカニズムを現実に実現することは、容易ではありません。

 例えば、さまざまな製品について、どの程度二酸化炭素を出しながら作られてきたのか、トラッキングできなければなりません。直接製造される過程では専ら電力が使われていても、その発電の段階で二酸化炭素が排出されているかもしれませんし、廃棄の際の二酸化炭素排出も考慮しなければなりませんので、トラッキング自体が高度な情報処理を必要とします。さらに、二酸化炭素の排出量をそれぞれの製品の価格に正しく反映させる必要がありますし、「ごまかし」を監視する仕組みも必要です。

 かつてのソ連の経済的崩壊が示すように、このようなメカニズムを中央集権的に実現するには、世界中の国々が統制的な仕組みに従って大量のデータを処理する必要があり、とても現実的ではありません。そこで、1997年の「京都議定書」などによって考えられたのが、「排出権取引」などのメカニズムです。

 これは、それぞれの経済主体が「損得」を判断しながら、二酸化炭素の排出削減に努めることが想定されています。例えば、二酸化炭素の排出削減が安価にできる国は、排出削減にコストがかかる国から対価の支払いを受け、代わりに自国の二酸化炭素を余計に削減してあげることになります。いずれにしても、個々の経済活動を地球環境の持続性確保につなげていくには、デジタル技術の活用が不可欠です。