コンテンツを収集したい人は、最初の売り出しの段階で入手するか、あるいは後日流通市場で購入することになります。この発行市場と流通市場のインフラは、ともにブロックチェーンを基に作られており、参加者は個々のコンテンツがどのように流通しているかをトレースすることができ、海賊版の横行を防ぐことができます。このように、マネーインフラに求められる「偽造・複製や二重譲渡の防止」という機能が、そのままNBAのコンテンツにも応用されているわけです。

©NBA Top Shot

ハイテク導入に熱心なNBA

 NBAはもともと、ハイテク導入に熱心なリーグです。NBAは昨年のコロナ禍の中、選手や関係者のPCR検査を徹底し、また無観客を貫きながらNBAファイナルまで実現しました。その一方で、デジタル技術によって遠隔から観客の顔をコートに表示する“#Whole New Game”など、ゲームと観客の一体感を醸し出すためのさまざまな取り組みを行ってきました。

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 また、例えばダラスのチームであるマーヴェリックスの名物オーナーであるマーク=キューバン氏は、バスケ好きが高じてバスケットボール中継のインターネット配信システムを作り、これを売却して得た富でマーヴェリックスを買い、2011年にはリーグ王者を勝ち取りました。

 米国の「フォーブス」誌はこの2月、2021年版として、世界のブロックチェーン分野の有力企業50社のリストである「ブロックチェーン50」を公開しました。この中には、米国のマイクロソフト、ビザ、ペイパル、JPモルガンチェース、中国のアント・グループ、テンセント、バイドゥ、平安保険など、「お馴染み」の顔ぶれが多いのですが、この中で唯一のスポーツ団体として挙げられているのがNBAです。ちなみに、日本の企業や団体はリストに挙げられていません。

 ブロックチェーンの技術的な評価は別として、デジタル技術を導入して顧客の効用を高めようとするNBAの取り組みは、日本においても、スポーツにとどまらない広範な産業において、学ぶべき点が多いように感じます。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ) 
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。