このシステムと人を併用した評価について、具体的に見ていこう
(1)文字認識機能による評価
あいさつや名乗り、提案のポイント、クロージングワードの有無に関わる文字認識の誤りは、「そもそも、機械が聞き取れないような話し方・滑舌をしている」という共通ルールで指導を行うこととした。機械判定のため、人による評価のぶれはなく公平である。
(2)「伝えるべきトーク」や「顧客によく聞かれる質問」の調査
次にキーワードを設定し、文字データの中からその発生の有無を自動判定できるようにした。管理者は、キーワードの発生があった対象のログについてのみ、その対象箇所を中心に「担当者がどこでそれを伝えたか、どのように回答しているか(分かりやすく伝えられているか)」を確認している。
(3)相手の反応を踏まえた商談が行えているかどうか
(1)と(2)はシステムに任せ、管理者は主に次の点に絞って録音や文字起こしされた商談内容の確認を行っている。
・商談場面を、どのようにリードしているか
・相手の反応に合った回答・提案で、アピールしたいことが伝わる構成か
・話の中で、うまく相手の情報を聞き出せているか
・担当者からの報告(担当者認識)と実商談の内容に食い違いがなかったか
担当者がどのような事前準備をし、何をどう聞き出し、どのようなストーリーで相手に話をしているか、次回以降のクロージングまでにどう展開しているかという事実を踏まえ、管理者は個別具体的・実践的なアドバイスをフィードバックする。
データ確認の際には、共有すべき・参考となる案件にフラグを立てて蓄積するため、管理者は自身の個人技に限らず、他者の好事例・実例ケースを提供することができる。また、営業担当者自身でも他者の参考になる案件がないかを情報収集することができる。
ここで紹介した手法は、リアルで自らスタイルをつくり上げてきた営業担当者にはやや気の重い手法であり、他者に見せたくないという気持ちもあったことだろう。しかし、実はそのような営業担当者こそ他者対応への関心度も高い。B to Cのある企業では、営業成績のインセンティブに加えて、個人のノウハウ・アイデア発信も処遇・評価の要素とした。一人一人に自分の試行錯誤を囲い込ませず、共有・展開させることで組織全体の成長に取り組んでいる。
オンラインツールの活用をきっかけに、実態を知ろうと思えば知ることができる環境が整いつつある。だからこそ、その情報を活用するかしないかは企業に委ねられている。難しいと諦めるのではなく、うまく実現できないかを考える企業こそ、チーム営業のあり方を変えていくのではないだろうか。
コンサルタント 江渡康裕(えと やすひろ)
経営コンサルティング事業本部
CX・EXデザインセンター センター長
シニア・コンサルタント
30年の経験を通じてさまざまな業種・業界のCS向上、マーケティング改革、サービス開発組織デザインなど幅広い経験を有する。 著書に『お客さまに対応する業務の品質管理』、労政時報「組織デザイン」連載執筆 など
コンサルタント 皆越由紀(みなこしゆき)
経営コンサルティング事業本部
CX・EXデザインセンター チーフ・コンサルタント
「顧客期待に応える商品・サービスの提供」と「効率的・最適コストによる運営」の同時実現に向けた改革を主軸としている。サービス開発、各顧客接点チャネル間連携・提供プロセス一気通貫の業務再構築、インサイド・セールスの役割拡大や、質を高めるためのマネジメント改革を行う。寄稿に「中小 企業のためのIoT導入のポイント-マーケティングにおけるIoTの活用と課題」(商工中金経済研究所)など