(写真はイメージです/写真AC)

 厳しい環境に置かれている地方の小規模スーパーは、どうすれば生き延びていくことができるのでしょうか。本連載では3回にわたって、小規模スーパーが生産性を高め、収益を向上させるための取り組みについて、具体的な事例を紹介しています。
(寺川 正浩:日本能率協会コンサルティング ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント)

個人経営型だからこそ各店の工夫を共有

 人員不足により店舗巡回を中心とする管理が行き届かなくなった地方の食品スーパーA社では計数管理を重視し、店ごとのバラツキにアプローチし効率的な指導につなげていきました。それだけではなく生産性向上のための取組も並行してすすめていきます。

 自分たちの仕事のやり方の違いが計数の違いにつながっているということが腑に落ちれば、割とスムーズに現場は動き出します。計数管理をとっかかりとする毎月の部門ミーティングが定着すると、高い数値の売場がどのようなオペレーションをしているか自然と主任間で話題に上がるようになりました。

「鮮度維持のために葉物は閉店後冷蔵庫で補完する」「昼と夕方のそれぞれ2回商品の売れ行きをみながら売場を変えている」──こういった個々の店舗の工夫が、じわじわと複数店舗に広がってきました。同じレイアウトがいつも数日間続いていた青果売り場が今は昼までの商品の動きをみて午後に売場を変えるようにもなりました。

「唐揚げはフライヤー170℃、4分30秒で・・・」。定番の売れ筋商品の共通のガイドラインです。デリカ部門では定番とされるアイテムを各主任が持ち寄って、せっかくなら一番おいしい味にあわせようという取組をすすめており、お客様の評判も上々です。

 しかし部門によっても様々です。「個店経営型」の色が強くなればなるほど、知恵の共有がなかなか進みません。第1回(「逆風に挑む!地方小規模スーパーが見える化したこと」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60446)で紹介した刺身だけで鮮魚部門売上の半分以上を稼いでいる店舗の主任に、刺身はどういう工夫をしているか問うと「他の主任には教えないでください」と念押しされました。外部の人間には教えないのではなく社内の人間には教えないというのだから、驚きます。極端な例ではありますが、A社の場合だと水産部門は特に職人気質のスタッフが多く、技術や工夫を共有しましょうと言ったところでなかなか出てくるものではありません。

 そんな「個人経営型」の色が強い部門でも、自分の店舗で後輩を育てるというアプローチは良かったようです。技術を伝承してほしい主任の下に若手をつけて、育成計画を立案してもらい、本社がフォローもしながらOJTを実行しています。もともとは「人材育成」という全く違う観点からの取組でしたが、これが結果的にノウハウの伝承になり、ナレッジ共有に繋がっていきます。堅物な人が多いのですんなりとはいきませんが、指導を受ける側は着実に育っているようです。彼らからすると「後輩育成」と「ノウハウ・ナレッジ共有」とはちょっと違うようです。これはこれでなんとも人間味が漂っています。

 どの業界でも同じですが、人に仕事がついてしまうと、異動や退職でお客様も離れていきます。A社も同様でこれについては半ば諦めていましたが、ノウハウ・ナレッジの共有が進めば大きく解消されると期待しています。

地方スーパーに生産性向上の取組は不可欠

 さて、地方のスーパーでとりわけ深刻化していく人員不足への対策の1つとして店舗マネジメントの取組について述べさせていただきました。もう1つ、「生産性向上」のA社の取組を紹介します。

 人員不足への対応としては、これまで10人でやっていた仕事を8人でやるための努力をしていかないといけません。人口減少率が激しいこのエリアでは永遠のテーマでもあります。

 スチームコンベクションを各店のデリカ部門に導入するなどして設備投資にて人手不足を補うことは行いつつ、仕事の手順や業務の見直しを進めていきました。自部門の業務の棚卸を行い誰がどういう業務を行っているかの業務の見える化をすることで改善の意識は芽生えます。精肉部門であれば同じパート社員でも手切り、スライサー、たたき、盛り付け等すべてをこなしている店舗と、特定工程しかできないパート社員が多い店舗とはっきりしました。スタッフの高齢化も進んでいる地方スーパーは身体上の理由で実質難しいケースも確かに多いのですが、方針としては全店多能工化をすすめていっています。

 売上をあげる工夫は10店舗が10種類のやり方でこれまで通り取り組むことで良いのですが、効率を高めるにはこれまでの「個店経営型」で各店に任せたところでメリットはなく、「チェーンストア型」で本社が統制・フォローしていかねばなりません。

 小売業での生産性向上を進める上で要員管理(シフティング)は必須です。仕事量のピークオフにあわせたシフトを組むことです。A社においてもシフトだけみると午前中にスタッフが集中していて、午後からスタッフが少ない店舗が目立ちます。来店客が多い昼と夕方にターゲットを当てたシフトに組み替えましょう、と理屈上はなるのですが、現実的にはそう簡単にはいきません。もともと時間の制約があるからこそパートで働いてもらっている方々が多いわけで、予想通りシフト変更をできたのはわずか1件だけでした。無理して時間を変更してもらって結果ワークライフバランスが崩れて長続きしないことのほうが会社にとってはリスクです。

 そこで、細かく業務の見直し余地がないかをチェックしていきました。ある店舗のデリカ売場ではパートの方々の退社時間が早い関係から15時からは清掃を開始しなければならず、結果、夕方向けの出来立ての商品を作ることができていませんでした。しかし、仕事のプロセスを確認していくとお昼の客数が落ち着いた時間帯に比較的余裕があることがわかり、思い切って13~14時におおよその清掃を済ませて、その後夕方向けの出来立て商品を可能な限り調理するオペレーションに変更してみました。その結果、シフトは従来と変えない中で、夕方にも出来立ての惣菜が充分ではないものの並ぶようになりました。もちろんその分売上もあがりました。

組織連携による生産性向上余地は大きい

 それでも“売場内”だけの取組では限界があります。生産性向上を進めていく上ではさらに部門内、部門間にも目を向けていく必要があります。

 “部門内”での取組として、デリカ部門では複数店舗分の惣菜を、鮮魚部門では複数店舗分の寿司を1店舗でつくる体制に見直し、従来の人員でより多くの商品を供給できる体制を築いています。

 “部門間”の取組も積極的です。市場の買付で旬で安価な商材をみつけた鮮魚部門や青果部門の課長からデリカ部門の課長に購入確認の連絡が入ります。そして当日に安く大量に仕入れた旬の茄子が、各店のデリカ部門で、天ぷら、マーボ茄子、焼き茄子に美味しく調理され完売します。従来は仕入れで対応していたトンカツは、畜産部門に協力のもと、肉を筋切りしてデリカ部門に渡してもらうようにしました。デリカ部門ではパン粉をつけて調理するだけですが、出来立ての商品が売場に並び完売します。こうした部門連係による手作り商品の粗利は断トツです。

 とはいえ、「個店経営型」のスタイルが強いと、一気に全社で進めるといった取り組みに時間がかかるのが正直なところです。小規模スーパー、とりわけ地方の小規模スーパーにとってこれから厳しくなってくる人員不足と戦っていくためには、これまでの「個店経営型」の良さは維持しつつ、売場内・部門内・部門間・店舗間の連携で付加価値をつくりだす新たなモデルづくりが求められます。

(第3回に続きます)

◎寺川 正浩(てらかわ・まさひろ)
日本能率協会コンサルティング ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント
1997年 JMAC入社。専門はマーケティング・営業領域。戦略策定から、戦略を実現するための業務プロセスの設計、KPIを活用したマネジメントの仕組みづくりを経て、実施・定着化までの一貫したコンサルティングを行う。小売・サービス業、食品メーカー、アパレルメーカー、医薬品メーカーなど幅広い範囲を支援。著書に「トップのための経営講座 国内成熟市場で伸びる営業・マーケティング戦略」(商工中金経済研究所)、『実務入門 「仮説」の作り方・活かし方』『実務入門 営業計画の立て方・つくり方』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター/共著)、「サービスプロセス改善事例集2010」(日経BP寄稿)、ほか多数。JMACサイトでもコラムを執筆。