加えて、BigTech企業は、銀行よりも多くのデータを集積し、銀行よりも広い範囲のビジネスにこれを活用しています。さらに、「データ」だけでなく「計算力」の面でも、BigTech企業は今や、世界のクラウド市場のトッププレイヤーとなっています。 銀行から見れば、BigTech企業は、銀行の600年の歴史の中で対峙した最強の競争者と言えるかもしれません。世界の大銀行の一つであるJPモルガンのダイモンCEOが、これからの競争相手として、他の銀行ではなくGoogleやFacebookを挙げているのも頷けます。
未来のマネーシステムとは?
そして、中央銀行デジタル通貨の取り組みも、BigTech企業が次々とデジタルマネー分野に参入する中、中央銀行がデジタルマネーのコントローラビリティを確保しようとする取り組みと捉えることもできます。とりわけ、中国のデジタル人民元は、このような色彩を色濃く持っているように思えます。
同時に、BigTech企業のデジタルマネーへの参入に対し、単に「中央銀行もこれに対抗し自らデジタル通貨を発行すべきか」という論点から考えることは、あまり生産的ではありません。
現在起こっているマネーの変化は、近代以降のマネーシステムが、技術革新によって変革を迫られていることを示唆しています。「中央銀行と民間銀行の二層構造」や、「預金を核とする金融仲介と決済の提供」といったモデルとは異なる、デジタル技術とデータ革命に立脚する新たなモデルが登場しています。この中で、「未来のマネーシステムはどうあるべきか」という広い視点から、対応を考えていく必要があります。
例えば、各国の中央銀行は概ね、当座預金の提供先を銀行などに限っていますが、この仕組みを維持すべきか、それとも、新たなマネーへの参入者にも広げるべきなのか。銀行は預金を集めることが認められる一方、その業務範囲はBigTech企業などに比べて限定されていますが、両者の競争上のイコールフッティングをどのように確保すべきなのか。これらの難しい問題を、一つひとつ解きほぐしていくことが求められています。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。