中央銀行デジタル通貨検討の背景

 中央銀行デジタル通貨が検討されている背景としては、デジタル技術の発達や暗号資産(仮想通貨)の登場なども挙げられるでしょう。

 しかし、JR東日本のSuicaの登場は2001年まで遡りますし、Suica同様の技術を中央銀行が自ら使えば、デジタル通貨の発行も技術的には可能であると思われます。したがって、中央銀行デジタル通貨を可能とする技術が、最近になって初めて誕生したわけではありません。

 また、ビットコインやブロックチェーン、分散台帳が登場したのは、今から10年以上前の2009年です。しかし、この当時、中央銀行デジタル通貨を巡る議論が盛り上がっていたとは言えません。

 中央銀行デジタル通貨の検討が、昨年後半以降に加速している直接の要因はやはり、Facebookの主導するLibraと、中国のデジタル人民元の取り組みであったといえます。そして、この2つにも、“BigTech”と呼ばれる巨大企業が深く関わっています。

「ビッグテック」のデジタルマネーへの参入

 デジタル通貨リブラは、安全資産を裏付けとする「ステーブルコイン」であることが特徴です。しかし、安全資産を裏付けにして価値の安定を図る暗号資産は、実はリブラ構想の公表(2019年6月)より前からいくつか存在していました。では、なぜリブラが大きな注目を集めたのか。やはり、これを主導しているのが、米国GAFAの一角を占め、20億人超のユーザーを抱えるFacebookだったからといえます。

 中国のデジタル人民元も、その狙いの一つは、中国のBATを構成するAlibabaグループやTencentグループが運営するAlipayやWeChatPayを牽制することが、狙いの一つと考えられます。数日前には、史上最高額となることが予想されていたAlipayのIPO(新規株式公開)が、中国当局とJack Maとの面談の後で延期されたことが注目を集めました。

 GAFAやBATだけではありません。近年、他国のBigTech企業も、次々とデジタル決済に参入しています。代表的なものとして、シンガポールのGrabの“Grab Pay”、インドネシアのGoJekの“GoPay”、南米のMercadoの“Mercado Pagoなどが挙げられます。