【事例③】自社リソース価値を高める顧客体験価値の創出
最後にご紹介するのは、カラオケボックスの事例である。カラオケボックスも自粛を求められるなど、コロナの影響を大きく被った事業である。幾つかのカラオケボックスで目にするのが「オンライン会議プラン」である。
リモートワークが長期化する中、オンライン会議が増えた人も多いはずである。経験のなかった人にとっては戸惑うことも多かったのではないだろうか。「やってみると、実はいろいろな事情があって家ではオンライン会議がしづらい」「街中でもカフェなどはオンライン会議がしづらい」「Withコロナの状況では不特定多数の人がいる場所には行きづらい」など、さまざまな悩みが出てきたと考えられる。メールが普及した昨今において、電話など「声を出す」機会や場所が減りつつあるのかもしれない。そんな人たちにとってカラオケボックスは「オンライン会議に好都合な場所」となった。なんといってもカラオケボックスは「気兼ねなく声を出す場所」であり、「個室」というリソースを持っていたのである。
筆者は実はカラオケが苦手で、これまではほとんど利用したことがなかった。しかし、オンライン会議のために利用する機会が増えてきたのである。Withコロナの状況下では、客先へのリアル訪問とオンライン会議が交互にスケジューリングされるなど、さらなる「街中でのオンライン会議の場所確保」というニーズは高まることも予想される。
顧客自身が問題解決すべく利用を始めたのか、カラオケボックス側がリソース活用として提案したのか、どちらが先かは定かではない。しかし、少なくとも結果としてリソースが生きる新たなターゲット顧客や利用シーンを開発したことは間違いないだろう。
今回、リソースをうまく使ってコロナ禍の環境変化に対応した3つの事例を見てきた。実はいずれも「ちょっとしたこと」でもある。コロナという外圧からリソース活用に至ったのかもしれないが、普段から考えておくべき重要な視点といえる。コロナにかかわらず、事業とは環境への適応や変化への対応が求められる。リソースを使い切る視点は持ち続けたい。
コンサルタント 渡邉聡(わたなべ さとし)
株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 CX・EXデザインセンター
シニア・コンサルタント
サービス産業を中心に、CS経営推進、サービスデザイン、新サービス開発、サービス生産性向上、業務改善、顧客対応力強化といったテーマで20年以上のコンサルティング経験を有する。著書に「サービス産業におけるサービス品質向上」など。