「Well-Living=Well-Being+Well-Doing」の発想で真の働き方改革を
先ほどもお話した通り「何もせずに今までのままでいい」はずがないのが現代であり、これから迎えるポスト・コロナの時代です。オンラインという1つの手段について考えるよりも先に、「生産性を真に向上させていき、人々のやる気を喚起し、多様性ある社会と組織にしていくための働き方」、すなわち事の本質を今この時点で考えなければいけない。
個々のビジネスパーソンが思いや軸を持って本質をつかみ、知恵を使っていかなければ変革は達成できません。そしてそこには強いリーダーシップが不可欠です。
今日私がお話をしたかったのは、「Well-Living=Well-Being+Well-Doing」という発想です。この考え方は石川善樹さんの『フルライフ――今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(出版社:NewsPicksパブリッシング)と
Well-Beingは、働く人の視点で「どうあるべきか」を考え抜くこと。滅私奉公の長時間労働から解放されるばかりでなく、その中で健康や家族や成長や働きがいを得ていくことです。
Well-Doingは、会社の視点で収益向上や労働生産性の改善を目指し、前例主義を排し、無駄や不合理を正す姿勢を持ちながら、社員ともきちんと向き合っていくことです。
いわば経営の原点に立ち返ることが、真の働き方改革への道だと私は考えています。そのためには「強烈な反省」が必要です。過去を捨て、未来を創る覚悟が問われます。先が見えない、正解のない時代だからこそ、むしろ輝く未来を自分たちの頭で考え、予測し、シナリオを描き、行動を起こさなければいけないのです。
では具体的に何をすれば良いでしょう。人事領域に絞って私なりに考えただけでも、いくつもやるべきことがあります。冒頭でお話したものだけでなく、捨てるべき過去は山程あります。例えば以下の通り。
・メンバーシップ型の人事→撤廃して、組織のニーズと社員の意思で決定していく
・人事主導型の配置→社員やラインが主導して決めていく
・年功序列→今すぐ完全に廃止して実力主義に
・規律、統制→エンゲージメントの発想で
・おっさんだらけの会社→ダイバーシティあふれる組織に
・定年制→即刻廃止
・新卒一括採用→差別化した戦略的採用へ
・給与→メリハリをつけ、マーケットと比較をし、戦略と連動していく
他にもたくさんあるはずですが、ともかく強烈な反省をもとに制度や仕組みを大胆に変えていかなければ、真の働き方改革など到底達成できません。これら全てを、あらゆる会社が実行すべきとまでは言いません。
実情に合わせ、どれとどれを実行し、どう連携させることでどんな効果を目指すのか。それを皆さんが自ら考え、選択し、行動する他ありません。
人事領域に限らず、組織にある無駄も徹底的に掃除していく必要があるでしょう。過剰に行われるミーティングも減らすことが可能ですし、正解を前提にしたPDCAサイクルの繰り返しという前時代的取り組みはVUCAの時代には無駄でしかありません。
一時期ニュースでも取り上げられていましたが、紙やはんこに依存した業務はオンライン化の敵でしかありませんし、VIPの“お出迎え”やそこに同行する“御付き”に代表される儀式も無駄。日本人お得意の忖度なんてものも捨てるべきです。
そんな中、私が筆頭に上げたい「捨てるべき無駄」は管理職比率や組織階層です。日本企業の場合、会社によっては管理職比率30%なんてところまであります。
社員の3人に1人が管理職になる必要なんて絶対にありません。せいぜい16~17%が適正だと私は考えます。そこで、私なりに編み出した数式があります。組織に適した組織階層は上からどの階層が何人の部下を持つか(span of control)を表した数式「1×20×10×6x」で求められます。
この計算式を用いれば、例えば30万人という大所帯の組織だったとしても必要な階層は6つだけ。1万人の会社には4つ階層があれば、組織として機能するという計算です。階層と管理職とが必要最低限に絞られ、身軽に動ける組織になることが働き方改革には必須です。