決算頻度の多さがコスト増加要因に

 長期の資産形成に不向きな理由をもうひとつ付け加えるなら、運用会社が分配を実施するための手続きが多くなり、コストに反映されてしまうことが挙げられます。

 前述のように、分配は会社(株式)の配当と同じで、決算を行わないと実施できません。上場会社にお勤めの方はおわかりかと思いますが、この作業はなかなかの負荷になります。数字を集計して決算書を作り、監査を受ける――上場企業の四半期決算でもたいへんですが、これが毎月となると相当の作業量増大を招き、それが運用コスト増の要因になります。結果として、毎月分配型の信託報酬は総じて高めになっています。

 論理的に考えると、複利効果が期待しづらいことと、決算が多いことによるコスト増加要因をはらんでいること。この2点が、毎月分配型が長期の資産形成に不向きとされている大きな理由といえます。

未来の報酬よりも目の前の報酬を優先しがち

 これらの理由は金融庁の指摘を待つまでもなく、投資家のほとんどが見聞きしたことがあるはずですし、その非合理性については十分に理解・納得しているのではないでしょうか。それでもなお、毎月分配型に投資する理由はどこにあるのでしょうか?

 日常生活における身近な経済行動について心理学を交えて分析する「行動経済学」では、人間は未来の報酬よりも目の前にある報酬を優先しがちな傾向があるとしており、これを「現在バイアス」と呼んでいます。言い換えると、概念的な「評価損益」よりも、現実としてのお金である「実現損益」を優先したいという感情です。

 投信の基準価額が上がって資産価値が高まることより、現実的な分配金としてお金が目の前に戻ってくる方が投資成果を実感できるという考え方。もしかすると、多くの日本人は金融機関や金融の仕組みをさほど信用しておらず、現実としての現金を強く志向しているのかもしれません。欧米や他のアジア諸国に比べてキャッシュレス化が遅れているのも、このあたりが背景になっている気がします。

「わかっていても気になる」のなら

「毎月分配型が長期の資産形成に不向きなことはわかっているけど、なぜか選んでしまう」「長期・分散・低コストを追求する合理性が成功のカギとわかっているけど、AIやロボットなどのアクティブ型投信が気になって仕方がない」。昔のヒット曲ではありませんが「わかっちゃいるけどやめられない」のが投資の最も難しい点なのかもしれません。

 ここでひとつの提案があります。やめられないのならやってしまう、気になって仕方がないのなら買ってしまったらどうでしょうか。思い悩んで投資に躊躇したり、気になる投信をいつもチェックしたりする時間がもったいない。とすれば、投資を目的追求と趣味の2つに分けてしまうのです。

 もちろん、趣味投資はごく一部の資金で行うこと。「資産のなん割」という大きなレベルではなくお小遣いを投資するイメージです。実際に投資してみると“非合理性への熱病”が治ることも案外多いようですよ。