もちろん大企業側に仮説やフックとしての強みは必要なものの、学習を通じて、手段から目的が生まれうる可能性は否定できないだろう。それを受け入れて飛び込むことで、戦略シナジーの可能性が広がる。GAFAの各社も創業当初から強みがあった訳ではなく、事後的かつ継続的に強みを構築している。それは今や大企業である各社とて同じはずだ。
イノベーションマネジメントのコンセプト
「右脳と左脳の行き来」は、アイデア発想の方法論という観点では、既によく知られた理論である。しかし、これを企業の新規事業創出・オープンイノベーションのフレームワークそのものに当てはめてマネジメントを行っている事例は少ないのではないだろうか。
通常、大企業のイノベーションマネジメントは、左脳的になりがちだ。右脳的なものは、マネジメントがしづらいからである。もちろん、左脳的な観点でのマネジメントが間違っているわけではなく、これだけでもある程度の「タネ」は期待できる。
しかし、それぞれのタネに対して本当の意味での「モメンタム」を付与することは難しい。多くの大企業において、アイデアの数ではなく、そこから先に進まないという点が課題となっていることからも、左脳的アプローチの限界が見て取れる。
JVCケンウッドにおいては、偶発的な要素も加わり、左脳的要素と右脳的要素がミックスされた状況が作り出されたことで、大きなモメンタムが生まれていると捉えることができる。
では、それは戦略的にはどのような「あるべき姿」として理解されるのか。今回の事例を通して、イノベーションマネジメントの新たなコンセプトが浮かび上がる。それは、「点は先に繋ぐのではなく、あとで繋ぐ」ということだ。
新事業を考える際に、最初から全社的な意味合いや既存事業とのシナジーを狙うと、各段に難易度が上がる。そのような事業のタネはそう転がっているものではなく、また既存事業部との利害調整といった実務上の難しさもある。
そこで、一旦、既存事業と線引きしたところで、スタートアップ的なWhy/What/Howの要素を押さえてテーマを推進する。もちろん、シナジーを考えないわけでなく、事業としてある程度自走できた段階で“改めて考える”。これを実現するためには、JVCケンウッドが「ブランドイメージ」という形で制約を設けたように、オープンイノベーションを開始する段階でも自社の戦略とのアラインメントを緩やかに取っておくことが重要だ。