静かに進む、既存企業の反攻。その実相に迫る

 データ資本主義の台頭、さらにオープンイノベーションという新たなビジネスのかたちが定まってきた現在。グローバル経営層スタディチームは、次なる変革の胎動をどこに見出したのか。本レポートで2015年から強調されているキーワードは、「ディスラプション(創造的破壊)」だ。

 GAFAに代表されるデジタル・ジャイアント。突如、競合として出現するデジタル系のスタートアップ。デジタルテクノロジーを活用したそれらの勢力によって既存業界のルールは一変し、ビジネスは「創造的破壊」の波にさらされてきた。ところが、2018年度版のレポートで掲げられたテーマは「守成からの反攻」である。最前線では既存企業の反撃が静かに進んでいるのだ。

グローバル経営層スタディの表紙 (IBM提供資料より)

「創造的破壊を主導しているのはどのような企業か? という質問に対して、72%の経営者層が『業界内の革新的な既存企業』だと答えています。デジタル・ジャイアントではなく、革新性に富む業界内の既存企業が、競争の上では大きな脅威になってきている現状が見て取れます」

 革新的な既存企業の優位性は「価値の共創に重きを置いていること」だと池田氏は分析する。つまり積極的にオープンイノベーションを推進する戦略が功を奏している、というわけだ。

「 スタートアップ企業との連携を通し、先進的なテクノロジーを社内に取り入れる大企業の活動が典型ですが、それだけではありません。コーポレートベンチャーキャピタルやアクセラレータプログラムを立ち上げ、スタートアップ企業に投資したり、アイデアソン、ハッカソンを企画して新ビジネスの創出を支援したりしています。テクノロジーにとどまらず、若手や多様な人材、新しい仕事の進め方を積極的に取り入れようとする動きを見せている大企業は少なくありません」

 デジタル・ジャイアントやスタートアップに既存企業が勝るポイントとして挙げられたのが「長年にわたって蓄積してきた有形無形の資産を強みに転換できる」ことだ。それは売り上げや取引高といったビジネスデータにとどまらない。社内で暗黙知として継承されてきたノウハウ、業界に特化した専門知識、顧客とのコミュニケーション履歴など多岐にわたる。それらのナレッジもデータ化し、フル活用できるのは既存企業ならではの強みだ。

「まったく新しい分野を開拓するのなら、既存企業よりもスタートアップが取り組めばいい。大企業は長年にわたって培ってきた資産が生きる領域に踏み出すべきではないでしょうか。顧客基盤や営業ネットワーク、そして無形のブランド。大企業しか持っていないもので、活かせるものはたくさんあります。既存の資産を新事業にうまく連携させていくこと。それこそが経営者の役割だと言えるでしょう。

 昨今、ビジネスシーンでは「両利きの経営」*1、「二階建ての経営」*2といったキーワードが頻出しますが、それらは本質的には同じだと思います。既存事業と新規事業をまったく切り離すのではなく、うまく連携させる。そして、新規事業で得たものをうまく既存事業にフィードバックし、変革の足がかりにする。こうした進め方ができている既存企業は新たな価値を創出できる。つまり『反攻に転じられている』と言えるでしょう」

※1 既存事業の推進と新事業の開拓を同時に進めていく経営手法。
※2 大企業において既存事業と新規事業どのように両立し実行するのかを考えること。