確かに過去の実績では、長期投資によって資産が増えることが見て取れます。たとえば、東証株価指数(TOPIX)が設定されたのは1968年1月。TOPIXは設定時を100として指数化されており、50年以上経った現在まで15倍以上になっています。ざっと計算して、年率平均5.6%程度の利回りということになります(税金などのコストは考慮しない複利として)。
株価は短期的に上下しながら、長期では上がっているのは事実。ではなぜ、株価は上がるのでしょう。構造的に上がる仕組みになっているのでしょうか。その理由に納得できれば、安心して長期投資に臨むことができるはずです。
企業と人の経済的欲求が株価上昇の源泉
株価には理論的に適正と思われる価格が存在します。理論価格や適正価格などと呼ばれ、M&A(企業の吸収・合併)などで用いられています。適正株価は企業の経済的価値を1株あたりに換算したものととらえ、「企業が現在保有する資産」と「将来稼ぐであろう利益」を加えたものとされています。
ニッセイ基礎研究所金融研究部の井出真吾氏は、長期的に株価上昇が期待できる理由を、適正価格を使って次のように説明しています。
「株式の適正価格は、自己資本(資本金や過去に稼いだ利益の蓄積など)と将来の予想収益(現在価値に換算)の合計で決まる。一般に企業は稼いだ利益の一部を自己資本に加算する。赤字が続かない限り長期的には自己資本が増えるので、株価も上昇するということだ」*
(*)「若い世代の資産形成 Part2」(基礎研レター2019年5月16日)より
企業が自己資本を使って、より売り上げを高め利益を増やす活動をおこない、そこで得た利益をまた自己資本に加えて利益を増やす努力をする。この繰り返しが事業であり、その集合体が経済活動ということなのでしょう。つまり、企業とそこで働く人びとの、より豊かになりたいという経済的欲求が源泉となって株価を長期的に押し上げていくというわけです。
株価は上がると楽観的に信じる
筆者自身はこの説明を目にしたとき、なるほどと思いました。もちろん、これは理論上の説明であって、実際には赤字続きの企業もあるし、適正価格とかけ離れた評価(株価)になっている企業もあります。だからこそ、個別銘柄に投資するよりもインデックス投信などで分散しながら長期投資することに大きな意味があります。
長期投資を継続するポイントは、株価は長期的に上がると信じること。そのベースになるのは、資本主義経済における企業と人間の欲求です。まさに、アダム・スミスが「国富論」で提唱した市場経済の自動調節機構「神の見えざる手」。株式市場を活用した長期投資には、株価には暴落や低迷期もあるがいつかは必ず上がると信じる楽観的な視点が欠かせないのかもしれません。