
皆さんは「リスク」という言葉を聞いたことがあると思います。一般には「危険度」や「危険なこと」などの意味で使われることが多いようですが、厳密には正しくありません。
たとえば、ISO(国際標準化機構)ではリスクマネジメントの国際規格ISO31000を規定しており、リスクの定義を「目的に対する不確かさの影響」としています。つまりマイナス面の影響だけとは限っていません。
金融や資産運用の世界でも「リスク」が頻繁に使われます。ここでは「投資によって得られることが期待できる収益(リターン)のブレ幅」と定義されています。ここでもとくにマイナスの意味には限定されず、逆に投資収益の源泉であるという位置づけがなされています。
虎穴に入らずんば虎子を得ず
やや強引に言い換えると「虎穴(リスク)に入らずんば虎子(リターン)を得ず」というところでしょうか。投資によって収益が欲しいならば、相応のリスクを容認しないといけないというわけです。(リターンを得るために)「リスクを取る」などという言い方も、ここから来ています。
資産運用におけるリスクにはどのような種類があるのでしょうか。投資信託で言えば主なリスクは6種類あり、投信の種類によって含まれるリスクの種類や大きさが変わります。
・価格変動リスク
投信に組み入れている株式や債券の価格が変動する可能性
・為替変動リスク
為替レートが変動する可能性。外国通貨建て資産に投資する投信の場合は一般に円高でマイナス、円安ならプラスの影響がある
・信用(デフォルト)リスク
債券などを発行する国・企業が財政難や経営不振などによって利息や償還金を定めた条件で支払うことができなくなる可能性
・金利変動リスク
金利が変動する可能性。一般に金利が上がると債券価格は下落し、金利が下がると債券価格は上がる
・流動性リスク
投資する市場の取引量などが取引の価格に影響を及ぼす可能性
・カントリーリスク
投資対象国・地域で政治・経済情勢に不安があったり、規制の影響を受けたりする可能性
自分のリスク許容度はどの程度なのかを確認
投資対象のさまざまなリスクが収益の源泉になるのであれば、投資にあたってはまず、自分がどの程度のリスクなら許容できるかをはっきりさせる必要があります。たとえば、投資したいと考えるお金が100万円あったとします。この100万円が1年後に80万円に目減りしたとしても、自分は納得できるし大きな不安にならないだろう――。こう思えるなら年率20%のリスクを許容できるということになります。
これは銀行などで資産運用の相談をした際に、最初に確認される「リスク許容度」チェックの一例です。実際にはもう少し細かいチェックリストや質問がありますが、基本は同じと思ってよいでしょう。
どのような投信に投資するのか。つまり、どの種類のリスクを取って収益をねらうのか、という点はリスク許容度を確認してから検討することになります。
長期・分散・低コストがリスクマネジメントの基本
個人の資産運用の基本は「長期・分散・低コスト」にあると言われています。
「長期」とは運用期間をできるだけ長く設定すること。そうすることで、得た利益をさらに運用に回す複利効果がより大きくなります。
「分散」とは、値動きの特徴が異なる金融商品に分散して投資すること。トータルの収益のブレ、まさにリスクが低減する効果があります。
「低コスト」は、信託報酬などの運用コストが低い金融商品を選ぶこと。運用コストは運用期間が長くなるほど、複利効果に大きな影響を及ぼすからです。
つまり、「長期・分散・低コスト」によって、投資の費用対効果を大きくしながら起算全体のリスクを小さくする効果が期待できるわけです。これは、個人の資産運用における「リスクマネジメント」の基本とも言うことができます。
知らないうちに・・・を避ける「リバランス」
ここで改めてリスクについて整理してみましょう。
・資産運用におけるリスクとは、期待する収益のブレ幅
・リスクは投資収益の源泉
・金融商品や投資対象によってリスクの種類・大きさが違う
・自分が許容できるリスクによって相応の収益が期待できる
・投資の第一歩は自分が許容できるリスク度合いを確認すること
・「長期・分散・低コスト」はリスクマネジメントの基本
資産運用におけるリスクマネジメントで重要なのは、「知らないうちに・・・」を極力避けるということです。
具体的には次の2つを避けたいところです。ひとつめは「自分が知らないうちにリスクが大きくなっていること」。これは、想像以上に資産が目減りする可能性が高まっていることにほかなりません。ふたつめは、その逆に「自分が知らないうちにリスクが小さくなっていること」です。これでは自分が期待する収益に届かない可能性が高まってしまうからです。
この2点を避ける対応策のひとつが「リバランス」です。リバランスとは、投資している金融商品の中身の資産バランス(日本株式/海外株式/国内債券/海外債券などの割合)を調整することです。
定点観測の意味でも1年ごとのリバランスを
最初に、日本株式に投資する投信に50%、海外株式に投資する投信に50%のバランスで投資したとします。投資してから時間を経ると、投信の値動きによって50%:50%のバランスが変わっていきます。その結果、日本株式70%:海外株式30%になったとしたら、日本株式の20%を売却して、その分で海外株式を50%まで買い増して元のバランスに戻します。これがリバランスです。
当然のことながら、投資スタート時の50%:50%というバランスが、リスク許容度と期待収益の観点から合理的かつ自分が納得していることが前提です。
リバランスのタイミングとしては、期間とバランスのズレ幅(「◯%ずれたら」など)の2つが考えられます。期間は、資産を定点観測するという意味でも「1年ごと」程度がよいでしょう。あまり頻繁におこなうのは売買コストなどの点で効率的ではありません。
資産運用全体をシンプルに中身をわかりやすく
資産運用のリスクマネジメントに関して、投信の運用経験もある経済評論家の山崎元氏が面白い発言をしています。「市場のリスクよりも真に恐ろしいのは人間の方だ」。山崎氏は金融機関のセールスマンやFP(ファイナンシャル・プランナー)、自らも含まれる経済評論家などの誰も将来の金融商品のリターンを正確にわかるはずがないと断言。「人間のリスク」という言葉を使いながら、友人・知人を含めた「他人を信用するな」とアドバイスしています。
他人を信用しないで、悪い判断・間違った判断や投資対象を取り込まないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。山崎氏は、自分の資産運用全体をシンプルにして中身をわかりやすくしておくことが有効だろうと述べています。逆説的ではありますが、心に留めておきたい考え方のひとつだと思います。
「長生きのリスク」の本当の意味とは
リスクとそのマネジメントについて整理してみると、巷間言われる「長生きのリスク」も意味が違ってきます。一般に広がっている「余命が長くなったことで、終年までに老後の生活資金が枯渇する危険性が高まった」というのは違和感があります。
「余命が長くなったことで、蓄えてきた老後の生活資金の取り崩しニーズ(ライフイベント)が多くなり、それが突発的に発生する可能性が高まった」とは言えないでしょうか。だからこそ、健康で長く働くことがより大事になり、資産のなかでいつでも自由に使えるお金を多めに見積もっておくことが肝要になります。
合理的な判断を下しながら楽観的な視点も
ストレス学説の提唱者であるハンガリー出身の生理学者ハンス・セリエ博士は、ストレス学をもとにした数々の人生訓を残しています。そのひとつが「Fight for your highest attainable aim. But never put up resistance in vain.」(自分にとって最高の目標が達成できるように努力しなさい。でも、無駄な抵抗はやめなさい)。
長い人生を豊かに暮らすための資産運用が悩みの種になり、人生を辛いものにしては本末転倒です。金融のプロでも先が見通せないのですから、その時々で自分が合理的と思う投資判断を下しながら「できないことはあきらめる」「細かいことは気にしない」などの楽観的な視点も、人生100年時代の資産運用には大切なのかもしれません。





