企業の「オープンイノベーション拠点」に出向く価値はあるか

 数年前まで、コワーキングスペースというと、主に決まった職場を持たないフリーランスやリモートワーカー、起業家等がそれぞれ黙々と自分の仕事を進めるための場所、という印象が強かった。しかし、最近では単なる場所貸しに留まらず、バックオフィス業務の一部代行や、異業種企業・有望なスタートアップとの交流機会を提供し、協業を促進する施設が増えてきているようだ。

 今回はこうした潮流に着目し、「オープンイノベーション拠点」としての機能を備えた「新型」のコワーキングスペース・シェアオフィスを取り上げる。こうした施設は不動産の新たな活用法としても注目を集めているが、一体どのような取り組みが行われているのだろうか。

2018年、ついに日本へやってきた「黒船」WeWork

「新しい形のコワーキングスペース」というと、2018年2月に日本へ上陸した「WeWork」を思い浮かべる読者も少なくないだろう。ゆったりとしたソファが置かれた明るく開放感のあるフロア。ガラスの壁で仕切られた会議室に、ビールサーバーを備えたドリンクコーナーなど、目につく特徴を挙げていくだけでも、同社が手掛けるコワーキングスペースやシェアオフィスが、従来のそれらとは全く異なるコンセプトでつくられていることが分かる。

WeWork「日比谷パークフロント」拠点のイメージ(画像はソフトバンクのプレスリリースより引用)

 しかし、ソフトバンクグループが多額の投資を行うことでも知られるWeWorkは、「先進的なコワーキングスペース」というイメージだけを武器に、世界中で多くの会員を獲得してきたわけではない。同社が手掛ける空間づくりやサービスには「各自の業務を効率的に進める」ためのオフィスという視点に加えて、オープンイノベーションを創出するための「場」づくりという視点が色濃く反映されている。

 各拠点に常駐するスタッフは日々のやり取りから利用者たちのニーズを見出し、それに即したイベントを開催する等して、利用者同士のコミュニケーションを促進させる手助けを行っている。さらに、同社は会員向けのアプリケーションを通じて、オンライン上でスタッフや世界中の会員たちと手軽にコミュニケーションを取る手段を提供している。このアプリには、解決したい課題を持つ会員と、解決するための手段を持つ会員をマッチングさせるシステムも搭載されていることからも、WeWorkの本質は物理的な場所を整備して貸し出すことではなく、オープンイノベーションを促進させるプラットフォーマーだという点にあることが分かる。

 同社のビジネスモデルは世界中で高く評価されており、近年では起業家やフリーランスだけでなく、マイクロソフトやIBM、KDDIやみずほ証券、日本経済新聞といった大手企業の法人会員が急増している。

 オフィスを単なる場所として捉えた場合、WeWorkの利用料金は割高に感じられるかもしれない。しかし、WeWorkの利用料金には各種インフラや家具・OA機器や備品といった業務に必要な設備に加えて、スペースの清掃や郵便の受取代行、来客時の受付対応といったオフィスとして必要なサービスの利用料金も含まれているため、ビルの一室の「賃料」と比べられるものではない。敷金や内装工事が不要で、入居後すぐに業務を開始できる上に、何より他企業やスタートアップとのコラボレーション機会が得られるというメリットは、イノベーション創出を急ぐ大手企業にとって大いに魅力的なものなのだろう。

 このように単純な入れ物としてではなく、ビジネスを加速させる出会いの「場」としての意味を持たせたコワーキングスペースやシェアオフィスは各地に増えつつあり、「コト消費」時代における新たな不動産の利用法としても注目されている。