「最低限必要な生活費」や「ゆとりある生活費」の金額は、これらの要素によってかなり変わるはずです。そう考えると、生活費に関するさまざまな調査データは参考になるとはいえ、そこから自分の趣味・趣向に合わせて調整することが不可欠です。お金や趣味・趣向の評価に相対的な視点は大事ですが、平均や他人との比較だけで答えを出すのは無理があります。

「老後資金1億円」では他人事だが

 もちろん現役世代のいまから、老後のライフスタイルや将来必要になる生活費を正しく導き出すのは難しいかもしれません。しかし、ある程度の予想のうえで、見聞きした金額よりも多いのか少ないのか、少ないならどの程度少ないのかという大枠での把握は意味があります。

 たとえば「家計調査年報」では、平均実収入が20万9198円で、支出(消費支出+非消費支出)が26万3717円なので、毎月の赤字が5万4519円という計算になります。この家計収支が自分のライフスタイルに合っていると仮定すると、毎月の赤字にどう対処していくかが老後資金のための資産運用の具体的な目標になります。

 収入も支出もライフスタイルも、ざっくりまとめて「ゆとりある老後生活のために1億円」などといわれると他人事のような気がしますが、細かく詰めて「月々5万円強を何とかする準備を」と考えると、少しは気が楽になってリアリティが高まりませんか? 少なくともわたしはそう感じます。

定年以降も稼いだり増やしたり

 老後資金は使って減っていくお金なので定年までに全額貯めておかなければならないと考えがちですが、それはちょっと早計です。65歳で定年を迎えたとしても、そこから20年以上暮らしていくことが前提になります。それだけの時間があれば、お金を使いながら稼いだり増やしたりすることができるのです。

 できるだけ長く働くことは老後資金の準備の基本中の基本です。定年後に自分のキャリアや特技を活かした仕事に就くことは、ぜひとも考えましょう。月数万円で十分と思うと、働き口の条件は広がるのではないでしょうか。さらに月数万円分の収益でよいのなら、ある程度まとまった金額を元本割れリスクが低い商品で運用を続けることも効率的です。

 お金はわたしたちが何をしていようが、わたしたちの時間を拘束しません。わたしたちが働いたり楽しんでいたりする間にも、お金が別に働いてくれることになります。老後資金の準備をストックとフローの両面で考えると資産運用のゴールが身近に感じられ、余計な不安が取り除かれるかもしれません。

 わたしが「月15万円でも何とか大丈夫といってはいるけど、年1回ぐらいは旅行に行かせたいよなぁ・・・」などと思っていたら、母がひとこと「余計な心配はしないでいい。それよりあなたたちは自分の心配をしなさい」。わたしたち兄弟は2人とも独身。それこそ余計な心配だと思いましたが、いくつになっても子どもは子ども。神妙に話を聞いたふりをして、東京へ戻ってきました。