1.はじめに―クリントン国務長官論文
ヒラリー・クリントン米国務長官が“Foreign Policy”誌(10月11日号)に「これからの世界政治はアジアで決まる。アフガニスタン、イラクでではない。米国はこれからもアクションの中心にい続けるだろう」と題する長大な論文を発表した。
筆者の若干の私見を加えて要約すれば、その論旨は以下の通り。
(1)米軍は経済力減退に伴い引き続き「世界の警察官」を全うするに足る戦力を維持することができない。
従って、今後は、重点戦域を定め、一部からは思い切って撤退し、特定戦域に戦力を集中して配備する必要がある。
(2)しからば、重点的に米軍を配備する正面はどこにするか。それは中国が台頭し、米国の経済的利益も大きいアジア太平洋にほかならない。
(3)アジアにおける冷戦後の重点配備は、日本と韓国であった(合計で5万人強の米軍を配備)が、これを見直す(日本に対する戦略的期待が低下したものと思われる)。
(4)新たな配備の方向性は次の通り。
●米軍配置を地理的にもっと広げ(distributed)、抗堪性があり、政治的にも問題性の少ない(sustainable)ものとする。
●特に南アジア、インド洋での米軍プレゼンスを強化する。豪州は南アジア、インド洋をコントロールするうえで、戦略的な重要国家。
●昨今は太平洋とインド洋が軍事的にも一つながりになってきた。シンガポールは、両洋を繋ぐチョークポイントで、戦略的に重要。同国には既に沿岸防衛用艦艇を配備したし、これからは共同作戦も検討する。
●このような戦略上のニーズに、米軍の配備・行動をどう合わせていくか。現状のトランスフォーメーションを見直す必要がある。いずれにしても米軍のプレゼンスをもっと広く分布させる必要があり、そのために同盟国、パートナー国を増やしていく。