1月20日、オバマ政権がスタートした。新政権の外交・安保政策チームの一員として、オバマはスーザン・ライスを国連大使に指名した。しかもオバマは国連大使を閣僚レベルに格上げした。(敬称略)
スーザン・ライスは、黒人女性の民主党側の外交政策通として、よく同じ姓のコンドリーサ・ライスと比較されてきた。コンドリーサ・ライスは第1期ブッシュ政権で国家安全保障担当大統領補佐官、第2期政権では国務長官を務めた。ブッシュの家庭教師とも言われた。スーザン・ライスはオバマからの信頼が厚く、その外交顧問を務めてきた。
スーザン・ライスはブルッキングス研究所の上級研究員で、クリントン政権下でアフリカ担当の国務次官補を務めた。2004年大統領選挙では民主党大統領候補のジョン・ケリー上院議員の顧問を務めた。
ライスはオバマと同じく、イラク戦争には最初から反対してきた。外交・安保閣僚、スタッフの中では、唯一、イラク戦争に公然と反対し続けてきた。クリントン政権での経歴にもかかわらず、2008年大統領選挙ではクリントンではなく、オバマを支持した。選挙戦を通じて、クリントン政権の元国家安全保障担当大統領補佐官アンソニー・レークなどとも親交を得た。
オバマ政権では、国連大使としてヒラリー・クリントン国務長官のもとで働くことになる。ただ、閣僚格になると閣議で国務長官と対等の発言権を持ち、日常の執務も国務長官同様大統領直轄となる。
共和党保守派政権は米国の国家主権を弱めるとの理由で国連を疎んじる傾向があり、とくにブッシュ政権は単独主義外交で国連を無視することが多かった。オバマはこれを転換し、国連重視を打ち出しており、側近のライスを国連大使に指名したのはその表れである。
ライスは、スーダン西部ダルフール紛争では軍事力行使を支持するなど、以前から人道危機への積極介入を主張してきており、軍事力行使における慎重論を唱えるジェームズ・ジョーンズ国家安保担当大統領補佐官とは多少異なるスタンスを持つ。
また貧困撲滅、地球気候変動への対策にも重点を置いている。ライスは、これらの課題について、「これらは全て米国の国家安全保障にとって重要だが、米国一国で解決できるものではない」と強調した。
オバマは外交において、従来の同盟国との2国間協力よりも多国間アプローチを強調しており、国連を介した、あるいは国連とは別個の多国間協力外交において、ライスは重要な役割を担うことになりそうだ。オバマは、国連大使のポストを閣僚格のポストとする意思を表明したが、これもオバマ政権の国連重視外交の方針を反映するものだ。
オバマは昨年12月8日の記者会見で、「スーザンは我々が直面する地球的挑戦は、機能する地球的機関を必要とすることを知っている。彼女は、私と同じく、国連が不可欠であるとともに不完全なフォーラムであると考えている」と強調した。ブッシュ政権の国連を軽視した単独主義外交への決別を明確にする狙いがある。ブッシュ政権で損なわれた外交関係を修復し、とくに国連との関係をより緊密にすることが焦点になる。
オバマの中心的な外交顧問を務め、国連大使に指名されたスーザン・ライスは、オバマ政権の外交課題について、「紛争防止、平和促進、テロとの戦い、核兵器の拡散・使用防止、気候変動への取り組み、大量虐殺の停止、貧困と疾病との戦い」と列挙している。これらがそのまま、オバマ政権の外交・安保政策の優先課題になる見通しである。