前回2007年のコンクールから、MOFの料理部門のプレジデントを務めているのが、アラン・デュカス氏。厨房だけでなく、舞台裏までも緊張感が張りつめているような会場で、その彼に特別に話を聞くことができた。(前回の記事はこちら

MOFのプレジデントはアラン・デュカス氏

MOF料理部門のプレジデントを務めるアラン・デュカス氏

 「ここに集まった候補者たちは、すでにかなり優秀なレベルのプロの料理人たちであることは間違いありません」

 「それでも、コンクールというのは時間の制約、いつもとは勝手の違う設備や環境、また予期しないアクシデントなど様々な条件がからみあった中でのチャレンジなわけで、その困難を克服してタイトルを得るというのは容易なことではない」

 「たくさんの成功者が誕生してほしいと思うけれども、かなり難しいでしょうね」

 彼がプレジデントに就任する前は、フランス料理界の重鎮中の重鎮であるポール・ボキューズ氏が長くこのポストにあった。

 それがデュカス氏になったことで、例えば、今回から、候補者のオリジナリティーや即興性が問われる3番目の料理、自由課題が新たに試験項目として加えられるなどの明らかな変化が見られる。

フランス料理の王道から一歩踏み出す

階段に勢揃いした審査員たち。トリコロールのリボンのメダルをかけているのはMOFのタイトル保持者。いずれも料理界、パティスリーの世界の実力者たちだ

 それは、フランス料理の王道をあくまで忠実に、高度なレベルで再現するということに重きが置かれていた従来の厳格さから一歩踏み出した試み。デュカス氏は言う。

 「時代とともに、料理も変化していっているわけですから、コンクールもまたそうであるべきだと思います。体系化されたエキスパートな技術だけでなく、現代性と自発性も求めたい。自由課題はレヴォリューション(革命)ではなく、エヴォリューション(発展)です」

 もう1つ、ボキューズ時代と比べて明白に変わったことがある。それは審査員のメンバー構成。

 それまではMOF保持者のみで固められていた審査員だが、デュカス氏就任以降は、タイトルを持っていないグランシェフもメンバーに加わることになった。

 今回の最終審査では、半分がMOFで、あとの半分がMOFを持たない人々。何を隠そう、デュカス氏自身がMOFのタイトルを持っていない。つまり、彼がプレジデントに就任したことそのものが、MOFの歴史始まって以来画期的なことだったと言える。