情報量が多くなるほど孤立していくパラドキシカル

──本書の「迷信・俗信」に関する個所では、過去にあったほんの数回の経験だけで、脳がいかに固定観念を持ってしまうか、誤ったパターン認識を持ちやすいか、といったことについて説明されています。SNSとAIの時代には、ある情報にアクセスすると、同じ方向性の情報や言論がその人に流れ込みます。高度なテクノロジーによって心のほころびが刺激され、危険な勘違いが強化・増幅されやすい状況になっているのでしょうか。

中野:そういう状況になっていますね。様々な陰謀論があり、「世界は、本当はこういった人々によって動かされている」というような、その人が信じたいと思う現実の形があって、そのような情報の中に埋没しやすい環境が現代は整っています。自分の信念とは異なる現実を受け入れることが難しい環境になっています。

 情報化社会の中で、情報はフラットに流れるものだとかつては思われていましたが、人間の脳はそんなに劇的には変わっていませんから、情報の処理能力はそんなに速くなってはいません。時間も有限です。

 そうなると、1人の人間が触れることのできる情報は莫大な情報のほんの一部、しかも1つの情報の吟味に使える時間はより短くなるため、その人の関心のあるワードや関連ワードをもとに、AIがピックアップしてきた情報を受け入れるという形になってしまう。自然とエコーチェンバー(反響室)現象が惹起されるんです。

 情報量が多くなるほど、人々の世界は独自の形の中に孤立していくというパラドキシカルな現象が起きています。

──人から相談を受けたり、相談に乗って相手にアドバイスしたりすることがいかに難しいことか、ということについても書かれています。その難しさの本質は、相手の語る悩みに必ずしも悩みの本質があるわけではなく、悩みを相談することを通して承認や共感を獲得したいという隠れた相談者の意図が潜んでいる場合もあり、扱い方を誤ると、関係に亀裂が走る危険をはらんでいると感じました。人に相談をしたりされたりする場合に、どんなことを意識しておいた方がいいでしょうか。