日本でも170万部を超す大ベストセラーとなった自己啓発書『グッドラック』(ポプラ社)で知られるスペイン人経済学者のアレックス・ロビラ氏。今年は作家のフランセスク・ミラージェス氏とともに執筆した『幸福の迷宮』(ゴマブックス)が静かなブームとなっている。
家族も恋人もなく、工場に勤めながら苛立ちと不安、虚しさにとらわれ生きてきたアリアドナ。ついに勤め先からも解雇され、絶望感に陥って迷い込んだ森は、人生の意味を見失った人が来る迷宮だった。ここで彼女は見失っていた「自分自身」を取り戻す――。
こんな寓話の主人公に自分を重ね合わせる読者が多いのは、社会の閉塞感の表れなのかもしれない。著者のロビラ氏とミラージェス氏に聞いた。
JBpress お2人が出会ったのはスペインのラジオ番組だったそうですが、まず、本著を執筆することになったきっかけからお話し頂けますか。
ロビラ 出会ったのは、私が司会を務めるラジオ局カデナ・セルの番組です。これは作家や哲学者や精神科医を招いて著作について語り合う番組で、フランセスクの書いた『会社における「ゼン」の定義』という本が面白かったので、ゲストとして招いたのです。
話しているうちに2人ともヴィクトル・フランクル(第2次世界大戦中にナチス強制収容所に送られた経験を持つユダヤ系オーストリア人の精神科医・心理学者)の大ファンであることが分かり、すっかり意気投合して幸福論を書こうという話になりました。
自分自身と向き合い、人生の意味を問う
JBpress 会社における「ゼン」というのは、日本の「禅」ですか?
ミラージェス そう、日本の禅から来るメディテーション(瞑想)のことです。私は昔から仏教に興味を持っていて、スペイン南部のグラナダの近くで3回、通算45日にわたって禅の修行を受けたこともあるんですよ。
ロビラ この本の中にも仏教の要素がたくさん入っています。自分は一体何者なのか、人生の意味は何なのか自問自答する姿勢、謙虚さ、他人に対する思いやりと感謝の気持ち。幸せというのはたどり着くゴールではなく、人生の歩き方そのものです。我々自身がこうした考え方の影響を受けているので、当然それは本にも現れています。
JBpress カトリックの教えが強いスペインの方が仏教とは面白いですね。これは、お2人の興味がたまたま一致しただけなのか、それともスペイン社会に何か変化が起きているのでしょうか。
ロビラ 我々だけでなく、仏教に興味を持つスペイン人は増えています。古くはフランコ政権下でカトリック教会が絶大な権力を誇っていましたが、それが崩れ去って革命が起きた。古いしきたりを押しつける教会に対し、若者の宗教離れが起きたのです。近年も宗教離れが進む一方、瞑想やヨガで自分自身と向き合う人が増えているように思えます。