山開き後の富士山(静岡県側)

 7月1日、山梨県側の「吉田ルート」で富士山の山開きを迎え、夏山シーズンが本格的に始まった(静岡県側の山開きは7月10日)。

 その富士山には初日から多くの登山客が押しかけ、山頂近くの山小屋はすでに予約で満室状態だという。コロナ明けで日本人だけでなく外国人も殺到し、オーバーツーリズムが懸念されるような状況だ。

 ほとんどの登山者は富士山登山に備えた服装、装備で臨んでいるが、相変わらず軽装で観光気分のハイカーもいる。サンダルやタンクトップ姿の外国人も。天候が急変する山の怖さを知らない人々だ。

 山開きの翌日には、早くも遭難情報が伝えられた。千葉県の夫婦が吉田ルートを下山中に登山道を間違えて須走ルートに入ってしまい、「道がわからなくなった」と消防に通報。夜10時過ぎに救助されるという遭難事案が発生した。

 富士山では昨年7─8月、山梨県側で3件の遭難が発生し、2人が死亡している。静岡県側では年間で56件発生し、4人が死亡。とくに静岡県側は前年に比べ34件も遭難件数が増えている。山小屋での仮眠をとらない“弾丸登山”や軽装での登頂など安易な行動は厳禁だ。

三つ峠登山道からの富士山(筆者撮影)

令和に入って再び増加に転じた山岳遭難件数

 令和以降の山岳遭難の概況を見てみよう。警察庁の「令和4年における山岳遭難の概況」(山菜採りや観光なども含む)によると、令和4年の山岳遭難発生件数は3015件で前年比380件増。遭難者は3506人で同431人増。死者・行方不明者は327人で同44人増となっている。

 令和元年から2年連続で減少していたが、3年以降は増加に転じ、4年は昭和36年以降最多となった。

 都道府県別の発生件数は(1)長野県284(2)東京都205(3)北海道192(4)山梨県155(5)神奈川県151となっている。山岳県だけでなく、比較的低山が多い東京、神奈川が上位に入っている点に注目したい。身近な山にも危険が潜んでいるということだ。

 年代別でみると、70代823人(23.5%)、60代708人(20.2%)、50代562人(16.0%)で、全国的には50代以上の中高年が全体の7割近くを占める。90歳以上も12人いた。

 日本きっての山岳県である長野県では、県警本部地域部山岳安全対策課が毎週、「長野県内の山岳遭難発生状況(週報)」を公表している。

 今年上半期(1月1日~6月30日)までの山岳遭難状況をみると、発生件数は96件で前年同期比4件増、遭難者数は117人で同14人増となっている。近年は遭難者に占める無事救出者数が増加傾向にあり、昨年は遭難者310人のうち129人が無事救助された。救助活動に携わった方々のおかげである。

 遭難の多くは疲労、道迷い、体調不良、技量不足などによるもの。事前の準備、対策で防げたケースが大半であることを忘れてはならない。

外国人ハイカーも多くなった(立山/筆者撮影)